近年、物流や製造の現場では人手不足や省人化の課題が顕在化しています。限られた人員で効率的に作業を回すため、ロボット導入はもはや選択肢ではなく「必須の施策」となりつつあります。特に、自律的に走行・搬送が可能なAMR(Autonomous Mobile Robot)は、人の代わりに荷物を運び、現場の生産性を大きく底上げする存在として注目を集めています。
しかし、AMRが真に現場で“使える”存在になるためには、安全性の担保が不可欠です。人やフォークリフトとすれ違うような混在環境でも、確実に障害物を検知し、柔軟に停止・回避できる能力が求められます。つまり、単に「走る」だけでは足りず、「環境を正確に認識する力」が必要なのです。
そこでカギとなるのが、LiDAR(Light Detection and Ranging)というセンサー技術です。LiDARは、AMRにとって“目”のような役割を担い、周囲をスキャンして障害物の有無や距離を瞬時に把握します。この記事では、そんなLiDARの仕組みから種類、AMRへの搭載時の活用方法や選び方まで、現場目線でわかりやすく解説していきます。
LiDARの仕組みと種類
LiDARの基本原理と構造
LiDARは、レーザー光を対象物に照射し、その反射光が戻ってくるまでの時間を測定することで、物体までの距離を算出します。これにより、AMRは周囲の空間情報をリアルタイムに把握することができます。センサー単体でも高精度の距離情報が得られるため、カメラや超音波センサーなど他のセンサーと組み合わせて使われることが多く、特に安全面において大きな強みを持っています。
主なスキャン方式と分類
分類軸 | 内容 |
---|---|
スキャン方式 | ・2Dスキャン(水平) ・3Dスキャン(水平+垂直) |
構造方式 | ・機械式(回転部あり) ・ソリッドステート(回転なし/耐久性高) |
2Dタイプは1方向(主に水平)にレーザーを照射し、平面的な情報を取得します。一方で3Dタイプは上下左右にスキャンし、立体的な情報を取得できます。また、メカ式は可動部があるため広範囲をスキャンできますが、可動部の摩耗リスクがあります。ソリッドステート型は可動部がなく耐久性に優れるため、厳しい環境下でも使用可能です。
AMRに多く採用されるタイプとは?
物流倉庫や工場のような屋内環境では、床面の障害物検知やルート制御がメインとなるため、2DスキャンのLiDARが主に用いられます。一方、屋外や人との協働が必要な現場では、3Dスキャンやソリッドステート型が選ばれやすくなっています。求められる用途に応じた最適な選定が必要です。
AMRにおけるLiDARの用途と活用図
LiDARの役割:AMRの「目」としての働き
AMRは自ら環境を認識しながら走行するため、「視覚」が欠かせません。LiDARは、次のような機能を担っています:
- 人や障害物を瞬時に検知し、減速・停止などの回避動作を指示
- 自己位置推定(SLAM:Simultaneous Localization and Mapping)により、マップ生成と現在地の把握
- 他センサー(カメラ、超音波)との連携で死角を減らし、360度の安全を確保
LiDARが活用される「自己位置推定・地図生成(SLAM)」の仕組みについては、AMRのSLAM技術とは?自己位置推定とマッピングの仕組みをわかりやすく解説で詳しく解説しています。
AMRの構成とLiDARの配置
┌─────────────┐
│ LiDAR(前方) │ ← 人や障害物を検知
└─────────────┘
↑
┌────────┐
│ AMR本体 │
│(走行ユニット)│
└────────┘
↓
周囲センサー(左右や背面)
現場によっては、LiDARを複数搭載し、死角をなくす設計も一般的です。
AMR導入プロセスにおけるLiDARの検討タイミング
AMR導入プロセス ─────→
[要件定義] ─ [機器選定] ─ [検証] ─ [導入] ─ [運用]
↓ ↓ ↓ ↓
LiDAR必要性 スペック確認 実証実験 保守整備
どの段階で検討するべきか?
- 要件定義時:AMRの走行環境(屋内/屋外)、人との距離、安全要件を明確に
- 機器選定時:LiDARの種類、視野角、検知距離、環境耐性を比較検討
- 実証実験時:実際の現場で人や障害物の検出精度を確認
- 導入・運用時:定期的な校正や清掃などメンテナンス体制の設計
LiDAR選定時に確認すべきポイント
【LiDAR選定時のチェックポイント】
☑ 検知距離は現場に適しているか?(例:5m以上など)
☑ 視野角は必要なカバー範囲を満たしているか?
☑ 屋外使用なら防水・防塵(IP規格)を確認したか?
☑ 他センサーやSLAMとの連携は可能か?
☑ AMRへの取り付けサイズ・重量に問題ないか?
このチェックリストを元に、複数の製品を比較することが重要です。
よくあるトラブルと注意点
誤検知・検出漏れの原因
LiDARは非常に高性能ですが、以下のような点に注意が必要です:
- 黒い物体やガラス、透明素材はレーザー光を吸収または透過しやすく、誤検知や検出漏れが起きる可能性があります
- 水滴や埃がレンズに付着すると測定精度が低下します
メンテナンスと運用上の工夫
- レンズ表面の汚れはこまめに除去し、清掃ルールをマニュアル化
- 通信トラブルや電源障害に備えた冗長設計も推奨されます
こんな課題があるなら、LiDAR搭載AMRの導入が有効かも
現場で以下のような課題がある場合、LiDAR搭載AMRがその解決手段となる可能性があります。
- 作業者とAMRが同じ空間で協働しており、接触事故を減らしたい
- 倉庫内で棚や台車など動く障害物が多く、柔軟な検知が必要
- 屋外エリアの搬送もカバーしたいが、環境変化に強いセンサーが必要
- マップ生成や自己位置推定を精度高く行いたい
LiDARを活用したAMR導入のポイント
- センサー単体での性能だけでなく、AMR本体との連携設計が重要です
- LiDARの取り付け角度や設置位置で検知範囲が大きく変わるため、シミュレーションによる事前検討が効果的です
- 他センサー(カメラ、超音波、エンコーダなど)との使い分けにより、死角を補完し全体の安定性が向上します
まとめ
LiDARは、AMRの安全かつ柔軟な走行を実現するために欠かせないセンサー技術です。導入検討時は、走行環境・目的・安全要件に応じて、最適なLiDARを選定することが鍵となります。製品選びの際は、仕様だけでなく、AMRとの統合性や運用体制も考慮しましょう。