「ラインが変更になってもロボットが自分で動きを覚えてくれたら…」
「ガイドテープの貼り替え、もうやめたい…」

そんな声に応えるのが、“地図なしで動ける”自律走行搬送ロボット(AMR)です。

従来のAGVはあらかじめ設定されたルート上を正確に走る一方で、レイアウトの変更や障害物への対応には弱いという課題がありました。これに対し、AMRは自分の位置を把握しながら周囲を認識し、状況に応じて進むルートを変えることができます。

その“頭脳”として欠かせないのが、SLAM(スラム)技術。
SLAMとは、ロボットが「自分が今どこにいるのか」を把握しながら、「周囲がどうなっているのか」をリアルタイムに地図として描き出す仕組みです。

本記事では、このSLAM技術について、AMRの現場活用例やセンサー構成の違いなども交えながら、現場担当者の目線でわかりやすく解説します。

「導入したいけれど、仕組みが難しそう…」という方も、ぜひ最後までご覧ください。

AMRにおけるSLAM技術とは?

物流倉庫や工場で活躍する自律走行搬送ロボット(AMR)が、従来のAGVと大きく異なる点として注目されているのが「SLAM技術」の搭載です。AMRが導入される現場では、人やフォークリフト、レイアウト変更など“予測できない変化”が多発します。そのような動的環境でも柔軟に対応できるのが、SLAMを備えたAMRの大きな強みです。

SLAMとは?

SLAMとは “Simultaneous Localization and Mapping” の略で、「自己位置推定(Localization)」と「環境マッピング(Mapping)」を同時に行う技術です。

この技術により、AMRはあらかじめ磁気テープやQRコードなどの“目印”を貼ることなく、見知らぬ空間を自ら探索しながら地図を作成し、正確に自分の位置を把握できます。

たとえるなら、初めて訪れた街の中をスマホなしで歩きながら、目印や風景をもとに頭の中で地図を描きつつ、自分の現在地も把握しているようなものです。

AMRの制御方式やナビゲーションについてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
各方式の動作原理や違い、現場での選定ポイントを体系的にまとめたガイドです。

AMRのSLAM制御とは?センサーとアルゴリズムで動く仕組みを解説

SLAMは、複数のセンサーから得られる情報をもとに、現在地と周辺環境を同時に把握する技術です。以下では、主に使われるセンサーとSLAMの基本処理の流れを解説します。

主なセンサー構成

AMRは走行中に常に周囲を監視しながら自分の位置を把握するため、複数のセンサーを搭載しています。以下の表は、代表的なセンサーとその役割をまとめたものです。

センサー主な役割特徴
LiDAR(レーザー)距離測定・地形認識高精度・暗所にも対応
カメラ(RGB/深度)画像認識・特徴点抽出障害物や標識の識別に有効
IMU(慣性センサー)加速度・角速度の計測動きの変化を高速検出

これらのセンサーがAMR本体にどのように搭載されているかを視覚的に理解するため、簡易なテキスト図で構成イメージを紹介します。

【AMRのセンサー配置図(上から見た構成)】

      ┌──────────────┐
      │     LiDAR(上部中央)    │  ← 周囲を360°スキャン
      ├────┬────┤
      │  カメラ(前面)   │     │  IMU(内部ユニット) │
      └──────────────┘
          ↑ 進行方向

このように、LiDARは主にAMRの頭頂部に設置され、周囲の障害物や構造物の位置を測定します。カメラはAMRの前方に設置され、進行方向の視覚的特徴を捉える役割を担います。IMUは筐体内に設置され、加速度や角度の変化から「動きの変化」を補足する役目を果たします。

これらのセンサーが連携し、SLAM処理に必要な情報をリアルタイムに取得しています。

このように、SLAMでは複数のセンサーが協力して周囲の状況を立体的に捉えます。センサー同士を組み合わせることで、個々の弱点を補い合い、精度の高い自己位置推定が可能になります。

SLAM処理の流れ

SLAMでは、センサーから取得した情報をもとにして、現在地の推定と地図作成がリアルタイムで行われます。その流れを下記にまとめました。

  1. センサーから周辺情報を取得:LiDARやカメラで環境データを収集
  2. 特徴点の抽出と一致確認(マッチング):前回と同じ場所かどうかを判断
  3. 現在地の推定(ローカライゼーション):AMRの位置を推定
  4. 地図への反映と更新(マッピング):取得した情報で地図を更新
  5. ナビゲーション判断と走行指令:目的地へ進むための経路を決定

以下は、この流れを視覚的に表現した簡易図です。

【SLAMの基本処理フロー図】

[センサー入力]
      ↓
[特徴点の抽出]
      ↓
[自己位置の推定]
      ↓
[地図の作成・更新]
      ↓
[ナビゲーション判断・走行指令]

このように、SLAMは「今どこにいるか」と「周囲がどうなっているか」を同時に判断しながら、AMRを自律走行させるための頭脳として機能しています。図にすることで処理の全体像がつかみやすくなります。

SLAMに含まれる「地図生成(マッピング)」の仕組みについてさらに詳しく知りたい方は、AMRのマッピング機能とは?自己位置推定と地図生成の仕組みをわかりやすく解説もご覧ください。

代表的なSLAMアルゴリズム

SLAMには複数のアルゴリズムが存在し、それぞれ得意な環境や構成があります。以下は主要なアルゴリズムの比較表です。

【SLAMアルゴリズム比較表】

アルゴリズム名使用センサー特徴適した環境
GMapping2D LiDAR軽量・高速処理平面・静的環境
Cartographer2D/3D LiDAR, IMU高精度・リアルタイム性複雑・動的環境
ORB-SLAMカメラ高密度な地図生成が可能視覚的特徴が多い環境

たとえば、「平面的な構造が多い製造工場」ではGMappingがシンプルで扱いやすく、「通路が入り組み、常に人が動いている物流倉庫」ではCartographerのリアルタイム性が強みを発揮します。

また、ORB-SLAMは天井や柱など視覚的に特徴の多い空間での地図生成に向いており、カメラの性能がキーになります。

こうした違いを把握することで、自社の環境や要件に合ったSLAM方式を選ぶ判断材料になります。

SLAM搭載AMRの活用事例|変化に強い現場での導入効果とは

SLAM方式のAMRが選ばれる理由は、単なる「技術的な高度さ」にあるのではなく、現場の変化に柔軟に追随できる「運用の現実性」にあります。以下に示す事例は、実際の現場でSLAMがどのような効果を発揮しているかを具体的に示しています。

レイアウト変更への柔軟対応

とある大手物流拠点では、月単位で棚配置や通路幅が変わる運用が常態化しています。従来のAGVではそのたびにガイドテープを再施工しなければならず、1回あたり2日間のライン停止と10〜20万円の工事費が発生していました。

SLAM搭載AMRに切り替えたことで、レイアウト変更後もセンサーが自動的に新しい構造をマッピング。作業は停止せず、AMRは再スキャン後すぐに稼働を継続しました。設備側の変更を気にせずに運用できることで、年間で100万円以上の工事・人件コストが削減されています。

動的環境下での安定運用

別の医薬品物流センターでは、通路内を作業員とフォークリフトが頻繁に横切るため、AGVでは誤停止やルート逸脱が多発していました。

SLAM方式のAMRでは、LiDARとIMU(慣性センサー)の組み合わせにより、障害物を一時的な要素として判断。経路を迂回したり、特徴点の再認識により自律的にルート補正を行います。その結果、誤停止率は従来の4分の1にまで低下し、ピッキング作業の遅延がほぼ解消されました。

工事不要で即日運用開始

食品業界の中堅メーカーでは、新設された出荷エリアに急きょAMRを導入する必要がありました。SLAM方式を採用したことで、床へのライン貼付やマーカー設置といった前準備は一切不要。センサーによる初回スキャンとルート設定のみで、設置から稼働開始までがわずか3日で完了しました。

このように、SLAMを搭載したAMRは、現場ごとの制約や変化に柔軟に対応するための現実的なソリューションとなっています。単なる「高機能ロボット」ではなく、現場改善のツールとして、戦略的に活用され始めているのです。

SLAM搭載AMRの導入前に確認すべきポイント

センサーがうまく機能しない環境の例

以下のような条件では、センサーの誤検出や精度低下が起こる可能性があります。

  • 照明のちらつきが強い(カメラが光を誤認識)
  • ガラスや鏡の多いエリア(LiDARのレーザーが跳ね返る)
  • 粉塵や湿気が多い(LiDARやカメラのレンズに干渉)

地図再構築のタイミング

環境の構造が大きく変わった場合、SLAMは地図の再構築(リマッピング)を行う必要があります。これは自動で対応できる場合もありますが、センサーや機種によっては「学習走行」や「手動操作」が必要になることもあります。

屋外環境での運用における課題

屋外では天候や照度の変化、GPS精度の問題なども加わるため、LiDARやカメラだけでは不十分なケースがあります。こうした場合には、GPS併用型SLAMや特殊センサーの活用が求められます。

SLAM方式の選び方|AMR導入前に比較すべきポイントとは

自社環境に合うセンサー構成を見極める

導入前に、AMRをどのような環境で使用するかを明確にすることが重要です。以下に、環境条件に応じたセンサー構成のマッチングをチェックしやすい形で示します。

【環境別センサー構成マトリクス図】

環境条件LiDARカメラIMU
照明が安定した屋内
暗所・粉塵の多い環境
高精度な経路制御が必要
移動物が多い物流エリア
壁面や構造物の少ない空間

※ ◎=最適/○=有効/△=条件付きで使用可

このようなマトリクスを見ることで、自社の環境条件に合わせたセンサー構成の選定が視覚的にしやすくなります。特に複雑な環境では、複数センサーの組み合わせによる冗長性(バックアップ機能)も重要な視点となります。

環境の特徴を把握した上で、センサーの組み合わせを選定することで、トラブルの少ない導入が可能になります。

静的/動的環境での適性比較

  • 静的環境(製造ラインなど):あまり変化がないため、2D LiDAR型SLAMで安定運用可能
  • 動的環境(物流倉庫など):人やモノが常に動くため、複数センサーの統合型が適しています

2D SLAMと3D SLAMの使い分けや、精度・環境別の導入判断について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

導入前の確認リスト

  • 地図生成の精度と更新頻度
  • センサーの冗長性(片方が故障した場合のバックアップ)
  • 過去の導入事例や同業種との相性
  • メーカーによる保守体制と設定支援の有無

まとめ|SLAMを正しく理解して、失敗しないAMR導入を実現しよう

SLAM技術は、AMRが現場に適応し、自律的に走行するために欠かせない中核技術です。ガイドレスで高精度なナビゲーションを実現できることで、従来のAGVでは難しかった“柔軟な運用”“素早い導入”が可能になります。

センサー構成やSLAMアルゴリズムの違いを理解し、自社に最適なAMRを見極めることが、導入成功のカギです。導入前には現場条件や運用フローを見直し、必要な機能と費用対効果を比較検討しましょう。

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