AMR(Autonomous Mobile Robot、自律走行搬送ロボット)は、製造業や物流業界で「人手不足」や「工程のムダ」を解決する切り札として注目されています。物流倉庫では人が歩いていた長距離のピッキングラインをAMRが自動で走り、製造現場では部品供給を時間通りにこなす──そんな未来が、すでに始まっています。

一方で、「導入したが期待した効果が出なかった」「思ったより費用がかかった」などの声も少なくありません。その多くは、選定段階での判断ミスに原因があります。

なぜ失敗が起こるのか? どこを見極めれば導入が成功するのか?

本記事では、AMR選定で見落とされがちな落とし穴とその回避法を、7つの観点から分かりやすく整理。さらに、比較検討や社内稟議にも活用できるチェックリスト付きで、実務にすぐ役立つ内容をお届けします。

どれを選べばいい?AMR導入でよくある3つの失敗例

運べるはずだったのに使えない…現場に合わない選定

ある工場では、最大積載300kgのAMRを導入しましたが、実際の運用では600kgの金属部品を台車ごと搬送する必要があり、まったく使い物になりませんでした。このように運用現場での要件と乖離した選定は、導入コストの無駄遣いになります。

見積が2倍に…コスト見通しの甘さ

AMR本体の価格だけを見て選定し、後から「システム連携に追加開発が必要」「屋外対応のための防塵・防水オプションが別料金」といった事実が発覚。結果、当初予算の倍近くの費用がかかってしまった例もあります。初期費用+導入総コストでの比較が欠かせません。

各費用項目の目安や全体構成については、AMR導入費用の内訳とは?本体価格・工事費・設定費用まで徹底解説 にて詳しく紹介しています。

保守対応に不満…サポート体制の落とし穴

地方拠点に導入した企業では、導入メーカーのサポート拠点が遠く、故障時の対応が遅延。生産ラインが止まるリスクに直面しました。稼働後の保守体制まで含めた選定が必要です。

なぜAMR選定が難しいのか?【現場が抱える4つの壁】

スペック表だけでは分からない使い勝手

実際の現場でスムーズに稼働するかどうかは、数値では測れません。たとえば「90cm幅の通路でも通れる」としていても、荷物や人がすれ違う実運用では問題が起きることもあります。実証テストや現場ヒアリングが重要です。

システム連携の難しさ

AMRの性能が高くても、既存の倉庫管理システム(WMS)や生産管理システム(MES)と連携できないと、情報の二重入力や手動操作が必要になります。連携の可否は事前確認が必須です。

現場の運用にフィットしない

導入後、「AMRが作業の流れを逆に阻害している」といった声が上がることも。人とロボットが協働する現場では、動線や作業リズムの調整が必要です。現場の運用設計を軽視しないようにしましょう。

稟議に必要な比較材料が不足

社内で承認を得るには、他社製品との比較や、費用対効果の根拠が必要です。「いい製品だから」という主観では通らないことが多く、定量的な比較資料の準備が求められます。

どれを選ぶべき?AMR選定の7つのチェックポイント

AMR選定では、以下の7つの観点で検討しましょう。

観点チェックポイント
1. 搬送物サイズ・重量・形状・荷姿(パレット、台車、箱など)
2. 導線・床環境通路幅、段差、勾配、屋外対応の要否
3. ナビ方式SLAM / マーカー / QRコード等、環境との適合性
4. 通信・連携WMS、MES、ERPとの連携可否と開発要否
5. 拡張性台数追加、レイアウト変更時の柔軟性
6. メンテナンス故障時の対応スピード、拠点のカバーエリア
7. 導入費用本体、システム、工事、保守の総コスト

この7つの視点で比較・検討することで、スペック・価格だけでは見抜けない“運用相性”を見極めることができます。

導入前に使える!AMR選定チェックリスト

要件整理シート

まずは、自社の運用条件を整理しましょう。要件が不明確なままだと、選定軸がぶれてしまいます。

項目内容記入欄
搬送物の種類例:段ボール、パレット、金属部品
搬送距離例:建屋間 50m、倉庫内 200m
使用エリア例:屋内のみ、屋外あり、傾斜あり
稼働時間例:24時間、2交代制、夜間運用あり
必須連携システム例:倉庫管理システム(WMS)
導入スケジュール例:2025年10月本稼働予定

比較・検討リスト

候補機種を並べて見える化すると、社内稟議にも使いやすくなります。

比較項目A社B社C社
ナビ方式
最大積載量
保守体制
通信仕様
初期費用
年間保守費用

そもそもAMRって何?AGVとの違いを整理しよう

AMRとは?

AMR(Autonomous Mobile Robot)は、自律的に周囲を認識しながら最適なルートを判断して移動する搬送ロボットです。SLAM(自己位置推定)技術により、環境地図の作成や障害物回避が可能です。

AGVとの違い

AGV(無人搬送車)は、磁気テープやQRコードなどの固定ルートに沿って動きます。一方AMRは、周囲環境に応じてルートを柔軟に変更できます。そのため、レイアウト変更が頻繁な現場や、人と共存するエリアではAMRが適しています

まとめ|選定に迷ったら「現場と運用」を起点に

AMRの成功導入に必要なのは、機能やカタログ数値よりも「自社の現場に合うかどうか」です。

  • なぜ導入するのか?
  • 何をどこからどこまで運ぶのか?
  • 誰が使い、誰が保守するのか?

こうした“運用視点”を軸に、今回紹介した7つのポイントとチェックリストを活用して選定を進めていきましょう。