AGV(無人搬送車)は、今や工場や物流倉庫に欠かせない存在です。人手不足を補い、24時間体制で稼働できるその利便性から、多くの現場で導入が進んでいます。
しかし——もし、稼働中のAGVが突然動かなくなったら?

ラインは止まり、作業は滞り、復旧までに現場は混乱…。
たった1台の停止が、大きな損失や納期遅延につながるケースも珍しくありません。

実は、こうしたAGVの停止トラブルは「故障」だけでなく、運用ミスや環境変化、意外な盲点によっても引き起こされるのです。

本記事では、AGVが停止する主な原因とその対策について、実際の現場で起きた事例・図解・チェックリストを交えてわかりやすく解説します。
「今まさにAGVが止まって困っている方」「トラブルを未然に防ぎたい方」の両方に、すぐに役立つ内容をお届けします。

よくあるAGV停止の原因とは

AGVが停止する原因は、主に5つのカテゴリに分類されます。各原因を知っておくことで、トラブルの予防や早期復旧に役立ちます。

AGV本体のハードウェア異常

AGVの駆動系、センサー、バッテリーなどの部品が劣化・故障することで、停止につながります。

  • モーターや駆動系の故障:異音や発熱が前兆になることも
  • バッテリーの劣化や電圧不足:充電管理が不十分な場合に多発
  • センサーの異常:ゴミや汚れ、故障で正しく物体を検知できなくなる

ナビゲーション・誘導系の問題

AGVは決められたルートを認識して走行します。そのルート情報に不備があると、迷子になったり停止したりします。

  • 磁気テープの剥がれ・摩耗:ルート認識不可となる大きな原因
  • QRコードの印刷かすれ:視覚誘導の読取不良に直結
  • SLAM地図のずれや更新不足:マップの精度が落ちると誤走行や停止が発生

通信エラー・システム障害

AGVは無線LANや制御システムと常時通信しています。この通信が切断されると、安全のためAGVは停止します。

  • 無線LANの切断・電波干渉:周囲の機器との競合が原因になることも
  • 管理システム(WMS/EMS)側の不具合:指令が届かないと停止する仕組み
  • 中継器やアンテナの障害:通信が届きにくい場所では特に要注意

障害物・通行路の物理的問題

AGVは非常に慎重な動作設計になっており、少しの障害物でも停止します。

  • 通路上の障害物(落下物・作業員):緊急停止の要因
  • 段差・傾きによる走行不良:構内の段差や傾きもセンサーが誤検知する場合あり
  • 光の反射や暗所によるセンサー誤検知:とくに屋外・夜間運用で発生しやすい

人為的ミス・運用設定ミス

意外と多いのが、人間による設定ミスや操作ミスによるトラブルです。

  • 作業者の手動停止や緊急停止:気づかないうちに押されていることも
  • 運行ルート・スケジュールの設定ミス:管理画面の入力ミスに注意
  • メンテナンス未実施による蓄積不具合:予防整備が重要

AGVが動かなくなる原因と対策一覧

トラブルカテゴリ主な原因対策例
本体故障モーター異常、バッテリー劣化定期点検、消耗部品の予防交換
ナビ不良磁気テープ剥がれ、SLAM地図ズレ経路メンテ、地図の再学習
通信不良Wi-Fi切断、電波干渉ネットワーク環境の見直し、専用回線の検討
障害物通路上の異物、人との接触作業動線の見直し、侵入防止措置
人的ミススケジュール設定ミス、手動停止操作マニュアルの整備、属人化排除

トラブル発生時の初動フロー

トラブル時に慌てないためには、明確な対応フローの整備が不可欠です。以下は、AGVが停止したときの基本的な確認手順です。

  1. AGV停止を検知(アラート・ランプ・通知)
  2. アラート内容・ログの確認(システム・本体画面)
  3. 現場の物理環境確認(障害物・照明・床面状況など)
  4. 管理システムとの通信状態を確認(LAN/Wi-Fi/クラウド)
  5. 本体エラー内容の記録・簡易復旧作業(再起動・電源OFF→ONなど)
  6. 再発防止のための共有・記録(エラー報告・再発防止策の周知)

実際のトラブル事例とその学び

現場で起きたトラブルには、再発防止につながる多くのヒントが詰まっています。

物流倉庫:磁気テープの摩耗で進行不能に

経年劣化により磁気テープが薄くなり、AGVがルートを認識できなくなった。現場では日常点検時に床を見ていたが、テープの劣化には気づいていなかった。
→ 対策:半年ごとの定期交換と点検スケジュールを導入し、床の劣化チェックリストを作成。

製造ライン:通信途絶によるエラー停止

周囲に設置された大型設備がWi-Fi電波を遮断。AGVがネットワーク切断で緊急停止した。特に夜間の稼働時に集中して発生していた。
→ 対策:専用中継器の設置と通信ルートの最適化に加え、夜間の電波環境もモニタリング。

屋外搬送:センサー誤作動による停止

晴天の日、路面の強い反射光がセンサーに干渉し誤検知を引き起こした。センサーの調整履歴も不明だった。
→ 対策:屋外対応センサーへの切替と、AGV側の感度調整。センサー設定履歴の管理ルールを新設。

AGV停止を防ぐためにできる5つのこと

1. 点検・保守のルーティン化

  • 週次・月次点検の内容を標準化し、誰でも点検できるマニュアルを整備
  • 点検記録を紙ではなくクラウドで管理し、経過が見える化される仕組みに

2. ログの活用と異常傾向の可視化

  • AGV本体やシステムログの保存・分析で、頻発エラーの傾向を把握
  • トラブルが起こる“前兆”を見つけ、予防整備へつなげる

3. トラブル時の対応マニュアル整備

  • 停止時の初動マニュアルをA3サイズで掲示、QRコードで閲覧可能に
  • マニュアルは写真入りで、誰でも即判断できるように工夫

4. ネットワーク環境の見直し

  • 無線のチャンネル混雑を可視化し、AGV専用帯域を確保
  • 通信ログから接続安定度を継続的に確認

5. 教育・共有体制の強化

  • トラブル事例を現場で定期共有し、属人化を防ぐ教育体制を構築
  • 「気づき」を共有できる報告フォーマットを導入

まとめ:AGVトラブルは防げる

AGVの停止は避けられないものではありません。トラブルの傾向を知り、現場の環境や運用を見直すことで、その多くは予防可能です。特に「人による予防活動」と「機械のデータ活用」の両輪で体制をつくることが重要です。

本記事の事例と対策を参考に、御社のAGV運用をより安定したものにしてください。

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