「また棚卸か…」「数が合わないのは、どこが間違ってるんだ?」「出荷を止めないと棚卸できない…」。現場でこんな声が上がるたびに、棚卸が“悩みの種”であることを痛感する方も多いのではないでしょうか。

棚卸作業は年に数回、もしくは月次で実施するものの、突発的な在庫確認や差異対応で作業負荷は高まり、正確性にも不安が残ります。しかも、在庫差異が他業務に波及すると、クレームや再出荷などのコストが膨らみ、現場の緊張感も増す一方です。

そこで注目されるのが、WMS(倉庫管理システム)による「棚卸業務の自動化・省力化」です。本記事では、アナログな棚卸から脱却し、WMSを活用することでどこまで効率化できるのかを、現場目線の課題や成功事例を交えながら詳しく解説します。

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WMSで棚卸はどう変わるのか?現場の“あるある課題”を出発点に

手書き・目視での棚卸が抱える非効率と属人性

冷え込む早朝、紙リストを片手に倉庫内を回る作業者たち。棚ごとに在庫を目視で数え、紙に書き込む。ミスを防ぐため二重チェックを行うが、それでも差異は出る。「この箱、前回の棚卸にはなかったはず」と、誰かがつぶやく。

このような手作業による棚卸は、時間がかかるうえにミスがつきもので、作業者のスキルや記憶に依存する「属人化」が避けられません。集計や転記にかかる手間も大きく、Excelへの手入力ミスが差異の原因になることもしばしばです。

棚卸日には通常業務を止めざるを得ず、出荷とのバッティングが発生するケースも少なくありません。こうした積み重ねが、現場にストレスを生み、精度の低下と工数増加という悪循環を招いているのです。

棚卸をWMSで効率化すると何がどう変わるのか?

WMSを活用した棚卸では、作業フローが大きく変わります。まず、WMS上で対象商品の棚卸指示を出すと、作業者のハンディターミナルにロケーション別の指示が配信されます。作業者は、指示通りに倉庫を回り、在庫をスキャンまたは数量入力するだけです。

入力情報はリアルタイムでWMSに反映され、差異があれば即時アラート。紙や手入力を経由しないため、ミスやタイムラグが発生せず、帳簿在庫と実在庫の整合性をすぐに確認できます。集計作業も自動で行われ、棚卸結果のレポート作成まで一気通貫です。

従来のような「集計に1日」「報告に半日」といった遅延はなくなり、作業者の負荷も大幅に軽減されます。なにより、現場が「棚卸をやらされている」から「棚卸が日常業務の一部」へと変化し、精度も自然と高まるのです。

在庫精度が全体業務に与える影響とは

在庫精度は、出荷精度・納期遵守・顧客満足度など、全体業務の根幹を支える要素です。在庫差異が生じると、「あるはずの商品がない」「別のロケーションにあった」「記録漏れで存在が分からなかった」といった問題が頻発し、ピッキングミスや再出荷対応に直結します。

こうした影響は、現場作業だけにとどまらず、営業・カスタマーサポート・経理など社内全体へと波及します。差異処理や報告作業に追われる時間は、本来業務を圧迫し、生産性を損なう要因になります。

棚卸の精度向上は、単なる在庫管理の改善にとどまらず、企業全体の効率性と信頼性を支える“土台”であるといえるのです。

在庫精度が業務全体に与える影響関係図(因果フロー)

在庫精度の低下が、誤出荷・再手配・顧客対応・経費増加といった一連のトラブルを引き起こし、最終的には信頼性と収益性の低下に直結する構造を整理しました。

棚卸の誤差・記録ミス
   ↓
在庫数の不一致
   ↓
ピッキング・出荷ミスの発生
   ↓
顧客クレーム・返品対応
   ↓
再出荷対応・追加コスト発生
   ↓
作業員の再配置・負荷増加
   ↓
出荷遅延・売上機会の損失

このフローからも分かるように、棚卸精度の低下は単なる在庫管理の問題ではなく、現場全体のパフォーマンスに大きな影響を与える“連鎖反応”を引き起こします。棚卸精度は利益直結の経営課題といえるのです。

棚卸を自動化・省人化するWMS機能の具体例

ハンディターミナル連携でのリアルタイム棚卸

WMSはハンディターミナルと連携し、棚卸作業をリアルタイムで記録・反映します。作業者は、指定されたロケーションを順に回りながら、バーコードをスキャンしたり、数量を入力するだけで完了。作業の順序もWMSが最適化し、迷わず効率よく進められます。

定期棚卸と循環棚卸の切り替え運用

WMSでは、年次・月次の一斉棚卸だけでなく、「循環棚卸」と呼ばれるゾーン単位・商品単位の定期的な棚卸設定が可能です。日常業務の合間にローテーションで棚卸を行うことで、大規模な業務停止を伴う棚卸が不要になります。

ロケーション管理との連携による作業短縮

ロケーション情報と連動することで、WMSは作業者に対し「どの棚を、どの順番で、どう回るか」を指示できます。これにより無駄な移動をなくし、作業時間を大幅に短縮できます。また、誤って別の棚をカウントしてしまうようなヒューマンエラーも防止可能です。

棚卸専用画面や一時差分記録機能などの運用支援機能

WMSには、棚卸専用の入力画面や、差異があった場合に一時的に記録・保留できる機能も備わっています。これにより、「原因が分かるまで一旦棚卸完了を止める」といった柔軟な対応ができ、作業効率と確認精度のバランスを取ることができます。

棚卸対応のWMSが持つ主な機能一覧

棚卸自動化を実現するために、WMSにはさまざまな支援機能が実装されています。その一部を以下に整理しました。

機能名内容・役割
ハンディターミナル連携棚卸データを現場から直接入力・送信
リアルタイム在庫反映入出庫と棚卸結果を即時に突合
ロケーション別指示出力棚卸指示を棚位置単位で分割・出力
棚卸専用UI/操作画面棚卸作業に特化した入力・確認画面
棚卸履歴管理機能差異データや過去棚卸記録を保存・抽出可能
循環棚卸スケジュール管理商品・ゾーンごとの定期棚卸を自動設定
差異データ自動フラグ付け機能差異発生時にアラートや再確認指示を自動出力

これらの機能により、従来属人的で手間のかかった棚卸業務が、標準化・効率化され、現場全体の信頼性が高まります。

WMS導入による棚卸業務フローの変化(Before→After)

WMS導入により、棚卸作業の流れそのものがどのように変化するのかを、従来の手順と比較して視覚的に把握できるように整理しました。

フェーズ導入前のフローWMS導入後のフロー
棚卸準備棚卸対象のリストを印刷し手配WMSから棚卸指示データを自動出力
棚卸作業目視→紙に記入→倉庫を往復ハンディ端末で棚番号ごとにデジタル入力
集計・転記紙の記録をExcelに手入力・集計データは自動集計、差異は自動判別・表示
差異確認・修正現物と帳簿照合、再確認に時間がかかる差異フラグを自動検出、即再棚卸が可能
棚卸完了Excel集計・報告書作成ワンクリックで棚卸完了処理・レポート出力

フロー全体がデジタル化されることで、人的ミスの排除と作業時間の大幅短縮が可能になります。特に差異確認のスピードが業務効率に直結します。

棚卸対応WMSの導入で得られた成果事例

月2日かかっていた棚卸が半日で完了した食品工場のケース

関東圏にある冷蔵品を扱う食品工場では、月末の棚卸に2日間かかっており、出荷停止の調整に苦労していました。作業員は延べ10名。棚卸リストの配布・記入・集計・照合に丸1日、翌日も誤差確認と報告書作成で終日を要していました。

WMS導入後、作業員は3名に削減され、棚卸はわずか4時間で完了。リアルタイムで差異が表示され、即時再カウントが可能となったことで、翌日の二重チェックが不要に。月末の出荷停止時間も最大6時間から30分未満に縮小されました。

WMS導入による棚卸業務のビフォー・アフター比較

この事例のように、導入前後で定量的に比較すると、棚卸効率がどれほど向上するかが明確になります。

項目WMS導入前WMS導入後改善ポイント
棚卸所要時間約16時間(2日間)約4時間(半日)ハンディ入力+即時集計
必要作業員数10人3人ロケーション指定による効率化
在庫差異率約7%約0.5%入出庫履歴との突合による精度向上
集計・転記ミス毎回数件発生ほぼゼロ手書き→システム連携への変更
棚卸後の出荷停止時間最大6時間30分未満リアルタイム差異処理による短縮

数字のインパクトからも、WMS導入による現場改善効果の大きさが伝わります。これにより、棚卸が“特別な業務”ではなく、日常業務に組み込まれる形となりました。

在庫差異が7%→0.5%に改善した部品倉庫の導入実績

精密部品を扱う部品倉庫では、目視カウントによるミスが多発しており、棚卸差異率が7%を超えることも珍しくありませんでした。WMS導入後は、バーコードによるスキャンと履歴照合が徹底され、差異率は0.5%以下に改善されました。

作業員からは「数字が合うようになってから、報告のストレスがなくなった」との声もあり、管理業務の負荷も軽減されました。

「棚卸が怖くなくなった」作業者の声と現場の変化

別の中小物流会社では、「棚卸のたびに差異を見つけては怒られる。毎月プレッシャーだった」という作業者の声がありました。WMS導入後は差異発生時も履歴や帳簿と即突合でき、「なぜ合わないのか」を説明できるようになりました。

これにより、作業者の心理的な負担が大きく軽減され、棚卸日が「重荷」から「通常業務の一部」に変化したのです。

WMS導入前に棚卸業務を見直すべき3つの観点

帳簿・実在庫・ロケーション情報の整合性チェック

WMSを導入する前に、まず確認すべきは現状の在庫情報の正確性です。帳簿在庫・実在庫・ロケーションデータが一致していなければ、WMSを導入しても“きれいに管理”されるだけで、実態が追いつかないリスクがあります。

現場確認やサンプル棚卸を通じて、事前の整合性チェックが不可欠です。

現場導線と作業分担の標準化

棚卸は、作業導線がバラバラなままだと効率化しづらく、誰がどの棚を担当するのかの割り当ても曖昧になります。WMS導入前に、エリアごとの責任分担や移動ルートの最適化を行うことで、WMSの効果を最大限に引き出せます。

WMS導入に先立つ「準備棚卸」のすすめ

初期導入時には、「準備棚卸」として、WMSと手作業の両方で棚卸を行い、誤差の発生状況を確認することが有効です。これにより、現場のオペレーションがWMSに適応できるかどうかの確認や、導入教育にもつながります。

棚卸業務に強いWMSを選ぶチェックポイント

循環棚卸対応・モバイル端末連携の可否

棚卸においては、「一斉にやる」から「計画的に分散してやる」への移行が重要です。これを可能にするのが、循環棚卸の仕組みです。WMSがこの機能に対応していれば、業務の合間にエリアや商品単位で棚卸を回していく運用が可能となります。

また、ハンディターミナルやスマートフォンと連携できるWMSであれば、作業者は専用端末を持たずに自身のデバイスで対応できるため、柔軟性と導入コスト面でも有利です。

現場オペレーションに合ったUI/UX設計

WMSは高機能であることよりも、現場作業者が直感的に使えるUI(操作画面)であるかどうかが重要です。特に棚卸では、数百件〜数千件のデータを短時間で扱うため、誤操作や混乱を避けるためにも、視認性・操作性が高いことが求められます。

画面の項目名、ボタン配置、確認フローなど、実際の作業を模擬しながら導入前に確認すべきです。

WMS導入後のサポート体制とカスタマイズ性のバランス

導入後、「棚卸業務だけ少し手順を変えたい」「独自の差異処理フローを追加したい」といった要望が必ず出てきます。そのときに、カスタマイズが可能かどうか、またベンダーがどこまで対応してくれるのかが重要になります。

初期費用の安さだけで選んでしまうと、いざというときの対応力に差が出ます。棚卸に限らず、WMSは“運用しながら育てる”ツールであることを忘れてはなりません。

棚卸業務に強いWMSを選定するためのチェックリスト

以下の観点をもとに、現場に本当に合ったWMSを選定するためのチェック項目を整理しました。

チェック項目自社の状況評価ポイント
棚卸専用の画面や操作フローがあるか□ ある / □ ない作業者の操作性に直結
ハンディターミナルとの標準連携があるか□ ある / □ ない現場とのリアルタイム連動
循環棚卸(ローテーション)の設定が可能か□ 可能 / □ 不可定常運用の省人化と属人化防止
棚卸差異の自動検出・通知機能があるか□ ある / □ ない棚卸後の再確認作業の削減
過去の棚卸データが抽出・比較できるか□ できる / □ できない調査・監査対応、改善分析への活用が可能

これらのチェック項目を参考に、自社の棚卸業務にフィットするWMSを選ぶことが、導入効果を最大化するカギになります。

まとめ:棚卸をWMSで“仕組み化”することの意味

精度・スピード・作業者ストレス、すべてが改善対象

棚卸という業務は、本来「効率的に、正確に、負荷なく」行われるべきものです。しかし実際には、時間と人を奪い、差異と疑心を生み、現場の空気を重くする厄介な存在になっている企業も少なくありません。

WMSを導入することで、棚卸作業そのものがデジタル化され、記録・集計・確認がリアルタイムで完結するようになります。結果として、精度が上がり、作業時間が減り、ミスがなくなるだけでなく、作業者の心理的負荷も軽減されます。

「合わないのが当たり前」からの脱却を現場が実感

WMS導入企業の多くが口を揃えて言うのが、「今は、棚卸で差異が出ると逆に気持ち悪い」という言葉です。これは、精度が当たり前になり、差異は「異常値」として扱えるようになった証拠です。

以前は「また差異が出たか」とあきらめていた現場が、「なぜ合わないのか、すぐに確認しよう」と前向きな姿勢に変わった。それが棚卸WMSの最大の成果だといえるでしょう。