AMR(自律走行搬送ロボット)の中でも、段差や傾斜に対応したモデルは“どんな環境でも走れる万能機”として導入が進んでいます。しかし、実際の現場では「対応モデルを選んだはずなのに動けない」「傾斜で空転する」「段差で止まる」といったトラブルが後を絶ちません。

本記事では、段差・傾斜に強いはずのAMRが“なぜ失敗するのか”を深掘りし、現場に合った機種選定のための実践的な見極めポイントを解説します。実例やチェック項目も交えて解説するため、初めて導入を検討する現場責任者の方にも役立つ内容です。

なぜ「段差・傾斜に強いAMR」が誤って選ばれるのか

カタログスペックだけでAMRを選ぶと失敗する理由

導入を検討する際、多くの現場担当者が頼りにするのがカタログや仕様書のスペック情報です。しかし、そのスペックはあくまで“理想環境”下での性能を示しているに過ぎません。

たとえば「登坂能力 6度」「段差乗り越え 20mm」といった数値は、乾燥した平滑な床面での試験結果がベース。実際の現場では床面の状態が異なり、滑りやすい・凹凸がある・傾斜の角度が途中で変化する、といった要因でカタログ通りに動かないことがあります。

現場の環境条件とスペックのズレが起きる要因

現場条件とスペックの間に“想定外のズレ”が生じるのは、以下のようなケースが多いです。

  • 劣化したアスファルト路面:表面が剥がれやすく、小さな段差が頻出
  • スロープの起点にある傾斜段差:登坂と段差を同時に処理できず空転
  • 雨天使用でのセンサー誤作動:水たまりや反射でAMRが“障害物”と誤認識

よくあるAMRの走破性トラブルとその原因

段差・傾斜対応AMRでも、実際の現場ではさまざまな走破性トラブルが発生しています。以下に代表的なトラブルを紹介します。

段差で底打ち・接地ミス

段差対応をうたっているモデルでも、最低地上高が想定より低い場合、AMRの底部が段差に引っかかってしまうことがあります。
とくにスロープ起点やリフト上の小さな段差は見落とされがちで、走行テストをして初めて気付くケースが多発しています。

段差での底打ちトラブルを克服した実際の導入事例については、こちらの記事もご参照ください。

【導入事例】段差でつまずいていたAMRが安定搬送|走破性を見極めた再導入の実例

傾斜で空転・横滑り

傾斜地では駆動輪のトルクと摩擦係数が重要になります。重量配分が悪いモデルや、小径タイヤのAMRは傾斜でスリップしやすく、停止後の再発進ができない“空転トラブル”も発生します。

雨天やぬかるみでの脱輪・センサー誤作動

雨天対応を考慮していない場合、センサーが水面を誤認し誤作動を起こしたり、ぬかるみにタイヤが埋まり動けなくなるといった現象が起きます。

走破性トラブルマップ

トラブル種類主な発生原因起こる現象
段差通過不能地上高不足/段差形状底打ち・ストップ
傾斜登坂不能タイヤ摩擦不足/重量偏り空転・滑落
雨天脱輪路面のぬかり/水たまり誤認スリップ・誤作動

AMR走破性誤選定の3大パターン

舗装状況を無視したAMR選定

現場の路面が荒れていたり、舗装に凹凸がある場合でも「カタログでは大丈夫」と判断しがちです。しかし、搬送ルートの途中にある微細な段差や未舗装路では、小型AMRは簡単に走行困難になります。

積載重量とタイヤ特性のミスマッチ

積載物が重すぎる場合、傾斜面ではAMRにかかる負荷が増し、タイヤの摩擦力や駆動力が不足して空転します。特に斜面途中で停止した後の再発進に失敗するケースがよく見られます。

段差高さに対するリフト能力不足

AMRの種類によっては、前輪が段差に乗った時点で機体が停止し、段差の頂上に乗り上げられずに“詰まる”ことがあります。リフトやサスペンション機構が備わっていないと、2cmの段差ですら走破できないこともあります。

誤選定パターンと失敗例

誤選定パターン主な原因想定される失敗
舗装状況を無視路面情報未取得脱輪・横転
タイヤ特性ミスマッチ積載時の重心ズレ空転・登坂不可
リフト不足段差の高さ想定不足段差手前で停止

こうすれば避けられる!正しいAMRの見極めポイント

現場事前検証のチェック項目リスト

現場チェックフローチャート

  • 段差はあるか? → Yes → 高さは何cm? → 3cm以上 → 地上高 or リフト要確認
  • 傾斜はあるか? → Yes → 何度? → 5度以上 → 摩擦係数+駆動力を確認

このようなチェックを導入前に実施することで、現場の盲点を発見しやすくなります。特に“ちょっとした傾斜”や“微妙な段差”が、搬送ミスや停止トラブルの原因になっている現場は非常に多く存在します。

メーカー選定時に聞くべき技術項目リスト

ヒアリングシート項目

確認項目チェック内容推奨アクション
段差の高さ2cm以上か?実測 or 写真提出
傾斜角度5度以上あるか傾斜計で計測
路面材質凹凸・濡れやすさ路面状態を写真添付
想定積載重量フル積載時の走行再現テスト走行依頼

これらの情報を事前に整理し、メーカーに提供することで「思ったより弱い」「聞いていた話と違う」といった行き違いを防げます。

まとめ|AMRは「現場条件×タイプ性能」で最終判断を

AMRのカタログスペックだけを信じて選ぶと、“走れるはずなのに動けない”という状況に陥るリスクがあります。段差・傾斜・ぬかるみといった「小さな障害」が実はAMR導入の成否を分ける大きな要素です。

現場で求められるのは、「メーカーが言うスペック」ではなく「自社の現場で本当に動くかどうか」。導入成功のカギは、現場視点での確認と機種選定の精度にかかっています。

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