「うちの現場は通路が狭いし、床も滑りやすい。こんな環境じゃ、AMRなんて無理だろう」
そう考えて、導入を見送ってきた工場は少なくありません。
しかし、実際には現場に合わせた選定と少しの工夫で、AMRは十分に活用できます。
本記事では、まさにその「制限のある工場」でAMRを導入し、
レイアウトも床材もネックにならなかった成功事例をご紹介します。
- 通路幅わずか850mm
- 段差と塗床あり
- 昼夜で照度が変わる厳しい環境
そんな現場で、なぜAMRは稼働し、どうやって定着したのか?
その全貌を、現場視点でリアルに追体験できる形でお届けします。
導入前:レイアウト/床条件で「本当に使えるのか」不安だった現場
導入前の条件整理と課題の棚卸し
今回紹介するのは、国内の精密部品メーカーが運用する工場での導入事例です。この工場では、通路幅が限られた構内で搬送効率を高める目的でAMRの導入を検討していました。しかし、現場にはいくつかの制約がありました。通路は約850mmと狭く、床には滑りやすい塗床が施され、加えて細かな段差も数カ所に存在。さらに、日中は自然光、夜間はLED照明という照度差があり、ナビゲーション精度への影響も懸念されていました。
項目 | 現場の状況 | 導入前の不安点 |
---|---|---|
通路幅 | 約850mm | すれ違いできるか不安 |
床材 | 塗床+小段差 | 滑り・段差越えの懸念 |
照明 | LED+自然光 | QR読み取りへの影響が心配 |
稼働時間 | 昼休憩を除く9時間 | 充電回数が足りるか不明 |
選定で迷ったポイントと初期検証の流れ
最初の選定候補にはQRコード誘導式AMRが挙がりましたが、照明環境による読み取り精度のばらつきや、レイアウト変更の頻度が高いことを考慮し、SLAM方式のモデルへ方向転換。導入ベンダーと連携して短期のPoC(仮運用)を行い、現場条件との適合性を徹底的に確認したことで、仕様決定の精度を高めました。
選ばれたAMRモデルと導入時の工夫
選定理由と採用されたモデルの特徴
選定されたAMRは、2D SLAM方式でマッピングと自己位置推定の精度が高く、停止誤差±10mm以内を実現。また、車体幅が800mm未満で通路制限にも対応可能。タイヤはノンスリップタイプで、床材の滑りや段差に強く、センサーは環境光に応じた自動補正機能付き。現場の不安を一つひとつ潰す仕様が揃っていました。
導入時に行ったレイアウトの工夫と床材対策
スムーズな走行を確保するために、AMRの通過経路に沿って棚を再配置し、通路幅を確保。滑りやすかった床にはノンスリップ塗料を追加施工し、段差部にはゴム製のスロープを取り付けることで乗り越え性を向上。工事自体は1日で完了し、現場の業務を止めることなく実施されました。
[Before]
┌───────────┐
│ 固定棚 │ 通路狭くAMR通れず
│ │
└───────────┘
[After]
┌─────────┐ 棚を移動・通路幅を拡張
│ 棚 ◯→│────→AMR通行可能
└─────────┘
AMR稼働後の運用実態と効果
現場スタッフの運用体制と工数変化
AMRの導入により、これまで2名で行っていた部品供給作業が1名体制で運用可能に。スタッフはAMRの操作ログをタブレットで確認しながら異常時の対応のみを行う運用に変更され、作業負担は大幅に軽減されました。また、搬送の正確性が高まったことで、作業工程の段取り替えもスムーズになりました。
導入後に実感したコスト削減・安定稼働の成果
6か月の運用を経て、搬送時間・人件費・トラブル対応時間のいずれも大幅に削減。停止トラブルはゼロ、AMRが通行中に立ち止まることもほぼ皆無。導入コストの40%を半年で回収できたことから、追加の導入検討も始まっています。
作業内容 | 導入前 | 導入後 | 削減率 |
---|---|---|---|
部品搬送(1日) | 約4.5時間 | 約1.2時間 | 73%削減 |
担当人員数 | 2名 | 1名 | 50%削減 |
トラブル対応時間 | 毎月約6時間 | 月1時間未満 | 83%削減 |
AMR導入のポイントはどこだったのか?成功要因を振り返る
事前の社内調整と関係者の巻き込み
AMR導入を現場主導ではなく「全体業務の改善プロジェクト」として捉えたことが、社内の協力体制を築くうえで重要でした。設備・IT・現場作業者を巻き込んだ勉強会を事前に行い、AMRの導入目的や機能を共有したことで、運用開始後も混乱なく移行できました。
外部ベンダーとの連携体制の評価
機器販売だけでなく、現場調査・試験運用・マップ作成・トレーニングまでトータルでサポートしてくれたベンダーの対応力が成功を支えました。導入後のトラブルにも即対応してくれたことで、現場の信頼感が高まり、継続運用の意欲にもつながっています。
導入関係者マップ:
【社内】
現場責任者 → 作業担当者
↓
情報システム部門/設備保全部門
【社外】
AMRメーカー → 導入支援SIer → 販売代理店
まとめ|レイアウト・床材条件でもあきらめないAMR導入成功のヒント
レイアウト制限や床材の問題を抱える工場でも、適切なモデル選定と事前の仮運用・現場調整を丁寧に進めることで、AMRの導入は十分に実現可能です。今回の事例では、「現場に合わせる」ための工夫と、「人を巻き込む」ための調整が、導入成功の鍵となりました。
同じように導入を検討している現場でも、「うちは狭いから無理だ」と諦める前に、本記事の内容を参考にして、条件整理と仮運用から始めてみてください。
→ この事例の“チェックリスト版”を今すぐ確認しませんか?
実際に現場で使われたレイアウト改善ポイント、段差対応の工夫、選定時の見落としがちなチェック項目を一冊に凝縮。
「うちの工場にもAMRが入れられるか?」を、たった数分で自己診断できます。