「1台のAGVが角で立ち往生したことで、ライン全体が20分間停止。人件費と出荷遅延で、1日あたり数十万円の損失が出た――」

これは決して特殊な例ではありません。むしろ、古いレイアウトの工場や狭小倉庫を持つ事業者にとっては“あるある”の事態です。

AGV(無人搬送車)は人手不足の救世主とされつつありますが、通路が狭い、曲がり角が多い現場では、むしろ「止まる・戻る・詰まる」が頻発し、現場の効率を落とす要因にもなりかねません。

とくに設備選定に関わる方にとって、「動かないAGVを選んだ」という烙印は、単なるミスではなく、“あの人の選定ミス”として信用や社内評価を落とす要因にもなります。

本記事では、こうした事態を防ぐために必要な「3つの条件」を中心に、狭小スペースでも失敗しないAGV導入の具体策を事例とともに解説します。

なぜ狭小スペースでAGVが曲がれず、止まり、詰まるのか

なぜ曲がれない?AGVが角で止まる典型パターン

現場では、「またAGVが止まったぞ」と作業者が声を荒げる場面も。その原因の多くは、旋回半径と通路幅の不一致です。特にT字路や90度の曲がり角は、旋回スペースが不足しやすい要注意ポイントです。

AGVタイプ最小旋回半径(目安)推奨通路幅(片側通行)
フォークリフト型AGV約1,500mm2,500mm以上
オムニホイール型AGV約800mm1,200mm以上
ゼロターン型AGV約0mm(その場旋回可能)1,000mm以上

そして判断ミスを招きやすいNG選定例も以下の通りです。

NG選定例問題点
AGV幅1,000mm、通路幅1,100mm旋回もすれ違いも不可。頻繁に立ち往生。
旋回半径1,200mmのAGV、直角コーナーあり曲がれず停止→作業員呼び出し→現場の空気悪化。

減速もできない?停止スペース設計ミスの代償

AGVは人や障害物を検知すると減速・停止します。しかし、通路幅が狭すぎたり障害物との距離が短すぎたりすると、急停止を繰り返すストレス要因となります。

AGVが何度も停止する原因が「人影」や「荷物の陰」への過剰反応だと分かり、現場では「これ、センサーの感度が高すぎるのでは?」と戸惑いの声が上がっていました。
実際には、動作不良ではなく設計段階での環境考慮不足が原因でした。

失敗するAGVの特徴と、狭小スペース対応の正しい見極め方

“積みすぎ・でかすぎ”が動線をふさぐ

導入後、「搬送量は大きくても通れない」というケースは多発しています。通れないAGVは、動けるAGVよりはるかに厄介です。
「一度止まると、作業員2人がかりで動かす必要がある。正直、台車の方が楽だったかもしれない」――実際にそんな声も上がっています。
搬送量が多くても、現場で動かしやすいサイズと構造でなければ本末転倒です。

センサーの死角が引き起こす、想定外の誤停止

消火器やパレットが“人”と誤認識されて止まるAGV。センサー配置や視野の狭さが障害物検知の精度に影響している事実は、意外と見落とされがちです。

「機械が止まると、人も作業を止めざるを得ない」

止まる原因を「現場のせい」にしないためには、設計段階での死角対策が不可欠です。

これだけは押さえておきたい!狭小スペース向けAGVの3つの条件

【1】通路幅と旋回半径に“余白”はあるか?

チェック項目推奨値(目安)
通路幅(片側通行)AGV幅 + 500mm以上
通路幅(双方向通行)AGV幅×2 + 1,000mm以上
最小旋回半径通路幅の半分以下

数値では通れても、実際には“回れない”“すれ違えない”ことが多々あります。

【2】AGV同士のすれ違いに“譲り合い機能”はあるか?

すれ違い・合流ポイントでは、協調制御がなければAGV同士がにらみ合って停止します。

通路の交差部で2台のAGVが同時に到着し、互いに停止して動かなくなる――。人であればアイコンタクトや声掛けで解決できますが、AGVには明確な“譲るルール”がなければ再始動できません
こうした場面に対応するには、協調制御や進路判断機能の有無が極めて重要です。

【3】現場の“実寸”と“人の動き”を考慮しているか?

通路に立つ作業員、開閉されるシャッター、角の棚――図面では見えない“実環境”を無視すると、必ず運用で詰まります。

┌──────────────┐
│ □棚 □棚 □棚 │  ←障害物配置
│              │
│   →AGV通過→   │  ←進行方向(900mm通路)
│              │
│ ←停止余裕エリア→ │  ←緊急停止スペース(300mm)
└──────────────┘

“たしかに通れる”ではなく、“本当に回れる・止まれる”かの視点が重要です。

AGV導入で詰まりゼロへ|混雑と緊張が消えた現場の実例

通路幅800mmで、なぜスムーズ搬送が実現したのか?

ある電子部品工場。作業員からは「この通路じゃ無理」と諦めの声。だが、ゼロターンAGVセンサーの配置最適化により、以下の変化が起こりました。

  • AGV停止回数:1日15回 → 1回未満
  • 呼び出し作業:週10回 → 週0回

導入後は、停止トラブルの報告がゼロに。作業員同士の“誰が対応するか”という無言のプレッシャーも、気づけば消えていました。

交錯ゼロ。譲り合いAGVが変えた搬送ライン

別の物流現場では、交差点でのにらみ合いが日常茶飯事。協調制御対応AGVの導入で交錯ゼロを実現

以前は交差点での立ち往生が起こるたびに、現場がざわつき、担当者の呼び出しが常態化していました。
協調制御対応AGVの導入後は、AGVの停止理由を確認する場面自体が激減し、作業全体が落ち着きを取り戻しました

まとめ|狭小スペースでも“動くAGV”を選ぶには

AGVを“動かす”のではなく、“詰まらせない”視点で選ぶことが、現場成功のカギです。

  • 曲がれるか
  • 止まれるか
  • 譲れるか

この3点を押さえた上で、現場のリアルと照らし合わせて選定する。それが、「止まるAGV」ではなく、「走り続けるAGV」を導入する第一歩になります。

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