灼熱の工場内。ライン脇を走っていたAGVが、突如として動きを止める。機体に触れると熱く、警告ランプが赤く点滅する——。このようなシーンは、50℃を超える高温環境を持つ現場では決して珍しくありません。

特に、鋳造・塗装・焼成などの工程を持つ製造現場や、屋根下の空調が届かない物流エリアでは、真夏のピーク時にAGVが立て続けに停止し、生産計画に大きな狂いが生じる事例が後を絶ちません。

「ちゃんとスペック通りのAGVを導入したはずなのに、なぜ止まるのか?」

「対策を怠ると、うちの現場も同じ轍を踏むのではないか……」

こうした不安を抱える現場責任者に向けて、本記事ではAGVが高温環境で停止する理由から始まり、対応機種の選び方と、運用設計で失敗を防ぐ具体策を体系的に解説します。さらに、実際の導入成功事例から、「導入後に現場がどう変わったか」まで追体験できる内容になっています。

導入前・運用中のどのフェーズにいる方にも、自社のAGV運用を見直すヒントが得られるはずです。

なぜ高温環境でAGVが停止してしまうのか

高温がAGVに与える影響と稼働停止の原因

昼下がりの高温ライン。AGVがあと数メートルで搬送完了というタイミングで、ピタリと動かなくなる。操作パネルには「温度異常」「保護動作中」の表示。現場では「またか」という声が漏れる——。そんな現場の苦悩には、構造的な原因があります。

AGV停止の典型パターンを図解で確認

以下に、AGVが高温環境下で停止に至る主な要因とそのメカニズムを示します。

【AGV停止メカニズム(高温環境下)】
高温環境(50℃超)
   ↓
電子制御基板の発熱・誤作動
   ↓
センサー異常検出 → セーフティ停止
   ↓
もしくは…
バッテリー温度上昇 → 過熱保護で自動停止

このように、AGVの停止は単なる故障ではなく、内部センサーが高温異常を検出し、あえて自動停止しているケースが大半です。

バッテリーや電子機器の耐熱性不足

高温時に特に弱点となるのがバッテリーと制御基板です。多くのAGVでは一般的なリチウムイオンバッテリーが搭載されていますが、これは周囲温度が40℃を超えると性能が劣化し、異常発熱や容量低下を引き起こします。

制御基板やモーター内部のセンサーユニットも同様で、熱による誤作動が発生すれば、安全設計上の「フェイルセーフ」処理が働いて停止します。これは故障ではなく、設計通りの動作なのです。

高温ラインに対応できないAGVの特徴とは

50℃を超える環境下での性能低下

現場の温度が50℃を超える時間帯に、AGVが突然停止する。その多くは、AGV側の温度対応スペックが不足していることに起因します。導入前に気付きにくいこのスペックの落とし穴が、日々の搬送トラブルに直結します。

適切な冷却システム未搭載のリスク

内部の温度センサーが異常値を検出しても、冷却ファンや放熱機構が不十分であれば、温度は上がり続け、停止しか選択肢がなくなります。

対応機種と非対応機種の違いをスペックで比較

以下の表で、非対応機種と高温対応機種の主な違いを明示します。

項目高温非対応AGV高温対応AGV
許容動作温度範囲0〜40℃0〜60℃
バッテリー特性通常型リチウムイオン耐熱仕様リチウムフェライト等
冷却機構なしファン・ヒートシンク・液冷など
温度センサー非搭載または簡易型高精度センサー搭載
使用停止条件(安全設計)内部温度45℃超で自動停止内部温度60℃超で段階的減速・停止処理

高温対応の有無は、稼働率と安全性を大きく左右する要素です。

高温環境に強いAGVを選ぶための基準

高温対応バッテリーと温度センサーの確認

見た目やスペックシートの表記だけでは見抜けないのが、高温環境に対する本当の耐性です。

AGV導入前に確認すべきポイントを一覧化

以下の図解は選定時に必ずチェックすべき項目をまとめたものです。

【高温対応AGV選定チェックリスト】
□ 使用温度範囲が50℃以上か(スペック表記)
□ バッテリー温度保証範囲は?
□ 本体に冷却機構はあるか(空冷・液冷)
□ 温度センサーが複数箇所にあるか
□ 安全停止時の挙動が段階的か即停止か

このチェックを導入前に実施することで、後々の停止トラブルを未然に防ぐことが可能になります。

温度管理機能や冷却システムの有無

本体側のスペックだけでなく、運用時に温度を「可視化・記録・予測」できるかどうかも重要です。温度ログが取得できるAGVであれば、異常の兆候を捉えることができます。さらに、冷却機構の仕様も確認し、単なるファンだけでなく、放熱設計まで含めて評価すべきです。

高温環境でも安定稼働するためのAGV運用設計

冷却システムの定期メンテナンスと監視体制

AGV本体が高温対応であっても、冷却システムが汚れていればその性能は発揮されません。

現場で安定稼働を支える具体施策一覧

以下の表に、日常的に行うべき運用体制のポイントをまとめました。

項目実施内容効果
冷却システムの清掃フィルター清掃、吸排気口の点検冷却効率の維持、防塵対策
モーター温度監視稼働中の温度ログ取得異常兆候の早期発見
室温センサー設置高温ゾーンに外付け温度センサーを設置環境変化をリアルタイムで把握可能
モニタリング連携AGVとSCADA・MES連携自動アラートで異常時に即対応可能

定期的な点検と監視は、高温トラブルを未然に防ぎ、稼働の安定性を高める鍵になります。

温度モニタリングによるリアルタイム管理の重要性

「止まってからでは遅い」というのが高温トラブルの怖さです。温度が上がりすぎる前に予兆を捉え、減速・回避などの対応ができるように、温度監視体制を構築することが重要です。

高温ラインでのAGV導入成功事例に学ぶ

製造現場での高温対応AGV導入成功事例

関西地域の金属部品製造工場では、真夏の午後になると工場内の温度が最大55℃に達することが常態化しており、搬送用AGVの停止が頻発していました。特に鋳造工程から加工工程へと製品を搬送するラインでは、高温+粉塵+長距離搬送という複合的な厳しい条件下にあり、「搬送中にAGVが止まる→製品が滞留→工程全体が停止」という悪循環が続いていました。

当初は汎用AGVを導入していたものの、バッテリーの温度上昇による自動停止や、制御基板の熱暴走による誤作動が日常的に発生。毎日15時前後になると、AGVが数台連続で停止し、現場責任者が「またか」と苦笑しながら手押し台車で代替搬送を行う姿が当たり前のように見られていました。

こうした状況を打開するため、次のような改善策が講じられました:

  • 60℃環境対応の耐熱型AGVへ機種変更(バッテリーはリチウムフェライト型)
  • 冷却ファン+アルミヒートシンクの併用冷却機構を標準装備
  • 本体内外に温度センサーを複数設置し、温度勾配で異常を事前検知
  • SCADAシステムと連携し、一定温度を超えると自動で待機エリアへ退避する機能を実装

その結果、1か月あたりのAGV停止回数は「21回」から「0回」に減少。搬送遅延が完全になくなったことで、生産ライン全体の稼働率が7%向上しました。

また、以前は停止対応に1日30分以上の作業時間が割かれていましたが、これが完全にゼロとなり、作業者の負荷も大幅に軽減。「これでようやく“無人搬送”と言える」「止まるかもしれないという不安から解放された」という現場の声が改善効果の大きさを物語っています。

現場での改善変化をビフォー・アフターで可視化

以下に、導入前後の違いを図解で表現しました。

【高温AGV導入のビフォー・アフター】

〈Before〉
- AGVが日中の高温で毎日1~2回停止
- 作業員が手動で搬送に対応 → 残業発生
- ヒヤリハットが月5件発生(人がAGVに接近)

   ↓

〈After〉
- AGVが24時間稼働を継続(無停止)
- 作業員の再配置により検査業務に集中可能に
- 接触リスクゼロ・ヒヤリ件数ゼロを達成

自動化ラインで高温対応に成功した事例

ある自動車部品工場では、焼入れ直後の搬送ラインに高温対応AGVを導入。温度に応じて自動でルート変更・減速する機能を活用し、現場の自律性が向上しました。作業者の手作業が減ったことで、熱中症リスクと人為ミスが大幅に減少したといいます。

まとめ|高温環境で失敗しないAGV選定と運用対策

高温環境でのAGV導入は、失敗すれば搬送停止、残業増加、労災リスクといった現場への負担を招きます。しかし、正しい選定と緻密な運用設計により、24時間安定稼働するAGV環境を構築することは十分に可能です。

「今はまだ止まっていないから大丈夫」ではなく、「止まる前に備える」ための選定と運用体制こそが、真の高温対応力です。

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