「パレット搬送はAGVで自動化できる」——そう信じて導入を決めたものの、いざ稼働してみると動かない、止まる、エラーが出る。現場からは「また止まった」「結局人が対応している」という声が漏れ、期待は失望に変わっていきます。特に見落とされやすいのが、“1t超”の重量パレットに対する対応ミスです。
AGVは一定の重量までは問題なく稼働しますが、少しでも過荷重になると途端に牽引力が不足し、搬送ルートの途中で停止してしまう事例が多発しています。その原因はAGVの性能だけではなく、選定時や運用設計時の見積もりの甘さや、現場状況とのズレにあります。
本記事では、1t超パレット搬送において実際に起きているAGV停止の事例をもとに、「なぜ失敗したのか」「どうすれば防げたのか」を具体的に解説します。現場での導入を控える担当者はもちろん、すでにAGVを導入済みの方も、一度立ち止まって自現場を振り返るきっかけとしてご活用ください。
なぜAGVがパレット搬送で停止するのか
1t超の荷重に対応できないAGVの選定ミス
薄暗い構内、AGVの警報音が鳴り響く中で作業員が駆け寄る。重量1.2tのパレットを積んだAGVが、発進直後に止まってしまった。エラーコードを確認し、手動でリセット。午前中だけで3回目の停止——これは決して珍しい光景ではありません。
多くの場合、原因はAGVの牽引力不足です。選定時に「1.0t対応」と記載されたスペックだけを見て判断し、実際のパレット重量や走行負荷を正確に見積もれていないケースがほとんどです。
パレットのサイズや重量に適した牽引力不足
パレットそのものの重量に加え、形状のばらつきや荷物の偏りが走行負荷を増加させる要因となります。重量が1.1t、1.2tとわずかにオーバーするだけでも、AGVが持つ牽引能力の限界を超えてしまう場合があり、停止や空転、緊急停止が発生します。
AGV牽引力不足が招く搬送停止の因果関係
AGVの牽引力不足がどのようにして現場の搬送停止へと波及していくのか、その因果関係をステップごとに視覚化します。
ステップ | 状況の内容 |
---|---|
①パレット重量超過 | パレット重量が1.2tなど、AGVの対応上限を超えている |
②牽引力不足のAGV選定 | AGVが1.0t対応と想定されており、力不足 |
③走行開始で異常発生 | 摩擦抵抗によりAGVが動けず、警報・異常停止が発生 |
④作業者が駆けつけ対応 | 手動でリセット・再起動が必要となり、現場が混乱する |
⑤運搬計画に影響 | 他の工程にも遅延が波及し、全体の搬送効率が悪化する |
牽引力の不足は単なるスペックの問題に留まらず、現場全体の混乱と搬送再設計を引き起こす大きな損失につながります。
パレット搬送AGV導入時によく起こる失敗例とは
AGV搬送における積載不良や荷崩れによる停滞
「カーブでパレットが傾いた」「停止時に荷物がずれてしまった」——これらはAGV搬送において頻発する問題です。積載時のバランスや固定具の不足、パレット自体の滑りやすさが原因となり、搬送の途中で荷崩れが発生。再積載や人手による確認作業が頻発します。
AGVの牽引能力不足による運行停止リスク
とくに1.2tを超える重量物では、AGVの牽引力がほんのわずかに足りないだけでも、停止や滑走を引き起こします。
パレット搬送AGV導入時に起こりやすい失敗パターン
失敗は導入時に始まるのではなく、選定や設計段階から伏線が張られている場合が多くあります。
フェーズ | 失敗の内容 |
---|---|
計画段階 | 現場重量・頻度・ルート条件を正確に把握しない |
機種選定段階 | 安全係数を考慮せずスペック上限ギリギリで選定 |
導入初期 | 重量オーバーで停止・エラー多発、バッテリー消耗も想定外 |
現場対応フェーズ | 人手介入が頻発し、効率・安全性ともに悪化 |
評価段階 | AGV導入そのものにネガティブ印象が定着 |
この表にある流れは、多くの現場が通った“失敗の王道パターン”です。避けるには、事前の設計精度と導入前検証が不可欠です。
1t超パレット搬送に適したAGV選びの基準
適切な牽引力と荷重分布に対応したAGV選定
選定時の見落としで最も多いのが、スペック上の「最大対応荷重」と「実際の運用条件」の乖離です。例えば「最大積載1.0t」と書かれていても、それは理想的な床面・走行条件下での話であり、少しでも勾配がある、床面がざらついている、荷重が偏っているといった条件下では、その性能は発揮できません。
重量別:AGVに求められる牽引力と選定目安
パレット重量ごとに必要な牽引力と、安全係数を加味した推奨値を一覧でまとめています。
パレット重量 | 推奨牽引力 | 安全係数込み推奨値 | 備考 |
---|---|---|---|
800kg | 1.0t | 1.2t | 標準的な構内搬送に対応可能 |
1.0t | 1.2t | 1.5t | 勾配・床面摩擦の影響に注意 |
1.2t | 1.5t | 2.0t | 高負荷対応モデルの検討が必要 |
1.5t | 2.0t | 2.5t | 超重量搬送専用AGVが前提 |
AGV選定時は、パレットそのものの重量だけでなく、走行環境・床面材質・スタート停止頻度など、実運用条件を総合的に考慮することが必要です。
バッテリー性能と運行時間に対する適切な仕様設定
牽引力と同様に重要なのが、AGVの「持続力」です。高重量搬送では、それだけ消費電力が増え、1回のフル充電で走れる時間が短くなります。
搬送重量に応じたAGVバッテリー性能と稼働時間
以下の表は、重量と稼働時間の関係を参考値として示したものです。
AGV仕様 | パレット重量 | 稼働時間(満充電時) | バッテリー容量 | 備考 |
---|---|---|---|---|
標準型(1.0t対応) | 800kg | 約8時間 | 48V / 60Ah | 通常業務内での連続搬送が可能 |
中負荷型(1.2t対応) | 1.2t | 約5時間 | 48V / 100Ah | 短時間集中搬送や中距離搬送向け |
高負荷型(1.5t対応) | 1.5t | 約7時間 | 80V / 120Ah | 長時間・高頻度搬送時は充電タイミング要調整 |
バッテリー性能は、稼働率や充電インフラとのバランスを踏まえて選定すべきです。「充電の合間に停止」「時間内に搬送が終わらない」といった事態を防ぐため、稼働計画に余裕を持たせましょう。
AGVによるパレット搬送時の運用設計で失敗を防ぐ方法
AGVの搬送経路と停車位置の最適化設計
「あと10cmずれていたら正確に荷物を受け取れていたのに」——そんな小さなズレが、AGV停止やパレット搬送ミスの原因になります。AGVの停止位置は数cm単位でズレが生じるため、受け渡し位置の設計は極めて重要です。
また、カーブの半径が狭すぎる、他のフォークリフトと交差する箇所が多い、床材の段差が激しい——これらも運行停止の引き金になります。搬送経路の見直しは、トラブル削減に直結します。
荷物の安定性を確保するための搬送アタッチメント選定
「パレットがカーブでずれた」「斜面で荷崩れした」などのトラブルは、アタッチメントがないことが原因である場合がほとんどです。アタッチメントとは、荷物を支えるガイドや押さえ具などで、揺れや滑りを防ぐ役割を果たします。
搬送アタッチメントの有無による荷崩れリスクの違い
以下は、アタッチメントの有無が荷崩れリスクに与える影響を比較した表です。
状況 | アタッチメントの有無 | 荷崩れリスク | 備考 |
---|---|---|---|
直進走行時 | なし | 中 | 摩擦次第ではズレないが停止時に注意 |
カーブ通過時 | なし | 高 | 遠心力で荷が滑り、傾き・崩れやすい |
カーブ通過時 | あり(ガイド付き) | 低 | サイドガイドで押さえ、揺れや横滑り防止 |
段差・傾斜走行時 | あり(押さえ機構付き) | 極めて低 | 上からの圧力保持で荷物が安定しやすい |
アタッチメントは、オプションではなく“必須装備”と捉えるべきです。初期投資を惜しんだ結果、頻発する荷崩れで得られるはずの搬送効果が帳消しになるケースは少なくありません。
パレット搬送で成功したAGV導入事例
1t超荷物を安定して搬送したAGV導入事例
関東のある食品系工場では、出荷パレットの平均重量が1.3tに達していました。初期導入したAGVは「最大1.2t対応」の記載がありましたが、実際の稼働では頻繁に停止。稼働率は70%を切っていました。
現場は一度、AGV導入を諦めかけましたが、搬送ルートと停止位置の見直し、2.0t牽引対応の高トルクAGVへの切替、アタッチメントの追加により、再挑戦。導入3か月後には停止ゼロ、稼働率98%を達成しました。
「今では1日70往復の搬送を人の手を借りずに完了できている。体力的にも精神的にも助かっている」と作業者は語っています。
効率化と安全性を実現したパレット搬送AGV事例
別のケースでは、鋳物工場でのパレット搬送において「段差・鉄粉による誤作動・荷ずれ」が頻発していました。対応として、停止精度を±10mm以内にチューニングし、段差対策を施したアタッチメント付きAGVを導入。
結果として、荷崩れゼロ、安全停止率100%を実現し、月間50時間相当の作業者再対応時間が削減されました。
まとめ|1t超パレット搬送AGVで失敗しない選定と運用対策
1t超のパレット搬送をAGVで実現するには、ただ「高性能なAGVを導入すればいい」という話ではありません。現場の荷重、ルート、停止位置、バッテリー設計までをトータルで見直す必要があります。
選定ミス、スペック誤認、運用環境の見落とし——こうした小さなズレが、搬送停止や現場の混乱を引き起こします。一方で、条件を正しく見極めた上でAGVを導入すれば、停止ゼロ・人手削減・安全性向上という大きな成果が得られます。
すでに導入している現場でも、再設計やチューニングによって再稼働できる可能性があります。「もうAGVは無理だ」と思う前に、一度、自社の現場環境と選定仕様を照らし合わせてみてください。
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