工場や倉庫の自動化というと、「広くて余裕のある大規模な現場じゃないと難しい」と思っていませんか?
実際、多くの現場では、バックヤードの通路は人がようやくすれ違えるほど。フォークリフトが回転できない、荷物を置くスペースも限られている――そんな“狭い現場”こそ、搬送の悩みが深刻化しています。

最近では、人手不足の加速や作業者の安全確保といった理由から、スペースが限られていても“無人化”を目指す企業が急増しています。
そして今、小型で高性能なAMR(自律走行搬送ロボット)の登場により、「この狭さでも導入できる」という現実的な選択肢が広がってきたのです。

本記事では、狭小空間だからこそ活躍できる“小型AMR”にスポットを当てて、

  • 現場でよくある課題
  • 機種を選ぶときのポイント
  • 実際に使われている代表モデル
  • スムーズに導入するためのステップ
    を、事例と図を交えながらわかりやすく解説します。

「自社にも本当に導入できるのか?」そのヒントを得たい方は、ぜひ最後までご覧ください。

狭小空間での搬送が抱える課題

フォークリフト・台車の限界

狭い通路ではフォークリフトや大型台車の取り回しが難しく、接触リスクや運搬効率の低下が起こりがちです。特に、通路幅が120cm以下の現場では、90度ターンやすれ違いが非常に困難になります。

人手による運搬の非効率性

限られた通路を人が何度も往復して物品を運ぶと、作業者の負担が増え、疲労や事故の原因になります。また、ピッキングや梱包といったコア業務に専念できず、全体の生産性も低下します。

作業導線の混雑とリードタイムの悪化

搬送ルートと作業エリアが重なる現場では、ヒューマンエラーや衝突リスクも発生しやすく、工程全体のリードタイムが伸びてしまうこともあります。これらの課題を解決する手段として、AMRの導入が注目されています。

小型AMRとは?狭い通路でも自律搬送できるロボットの特長

小型AMRの特徴と導入メリット

AMR(Autonomous Mobile Robot)は、自律的に周囲を認識しながら走行する無人搬送ロボットです。中でも“小型AMR”は、通路幅が限られる場所や、人が頻繁に行き交う場所での使用を想定して設計されています。

特長としては以下の通りです:

  • 自律走行(SLAMやQR誘導)で狭い通路も自動で走行可能
  • 人との共存設計により安全性を確保(自動停止や障害物回避)
  • 回転半径が小さく、小回りがきく
  • 搬送対象に合わせたサイズ・積載バリエーションが豊富

これらの要素が、従来AMRの導入を諦めていた狭小現場でも活躍の場を広げています。

狭小空間での活躍シーン

  • 製造現場の部品供給(細い組立ライン横)
  • 医療・研究施設のバックヤード搬送
  • 都市型物流センターや飲食店の厨房内

例えば、幅1.2mの通路を通って検体を運ぶ病院や、厨房とホールの間を移動する飲食店など、活用範囲は業種を問わず拡大しています。

【図解】狭い通路でのAMR通過イメージ

┌────────────┐
│ 通路幅:120cm         │
├────┬────┤
│ 作業員 │ AMR         │ ← 並走可能
└────┴────┘

*人とAMRがすれ違える最小通路幅はおよそ1.0〜1.2mが目安です。

小型AMR選定時の3つのチェックポイント

1. 最小回転半径と通路幅

例えば「曲がり角を90度ターンできるか」など、狭い空間でスムーズに方向転換できるかどうかは非常に重要です。製品ごとに“最小通路幅”が明記されているので、必ず現場寸法と照らし合わせましょう。

2. センサー構成と障害物回避性能

LiDAR(レーザー)やカメラ、超音波センサーなどを複数搭載しているモデルほど、人や障害物を安全に避ける精度が高まります。狭小空間で人との共存が前提の現場では、特に高精度なセンサー構成が求められます。

3. 積載量と本体サイズのバランス

「小型=軽量搬送のみ」と思われがちですが、最近は100〜300kg級まで対応できる機種もあります。搬送対象が重量物かどうか、サイズが大きいかどうかを見極めて、過不足ない仕様を選ぶのがポイントです。

小型AMR選定のための比較ポイント表

チェック項目評価基準の目安補足説明
通路幅対応最小通路幅が900〜1000mm以下狭小空間対応かどうか
回転性能最小回転半径が600mm前後90度ターン可能なか
センサー性能LiDAR+カメラ構成が望ましい障害物回避の精度に直結
積載重量30〜300kg搬送物に応じて選定
本体サイズ全長800mm未満通路・荷受け台との干渉リスク低減

代表的な小型AMRモデル一覧

メーカー名モデル名本体サイズ(L×W×H)最小通路幅最大積載重量特長
ASPINA(シナノケンシ)AspinaAMR 標準モデル約600×600×260mm約800mm100kg狭小通路対応。国内製造業でも導入あり
Standard RobotsOasis180D500×650×260mm約1000mm180kgクリーンルーム・精密組立対応
SKソリューションカチャカプロ約400×500×300mm約550mm30kg超小型かつ低価格。狭路・軽量搬送に最適
ForwardX RoboticsFlex 300-L800×480×295mm約960mm300kg中規模倉庫やピッキングライン向け
PLiBOTEVOcart™ 51600×560×230mm約1000mm500kg長尺・重量物に対応したモデル

AMR導入前に整理すべき5つの現場チェック項目

1. 通路幅・曲がり角の最小寸法

現場内で最も狭い場所(通路やドア幅)を正確に測り、それに合ったAMRを選ぶ必要があります。測定ミスによる再施工のリスクもあるため、慎重に確認しましょう。

2. 安全対策(人との接触リスク)

人との共存を前提とするAMR運用では、走行ルートの明確化、音声・光アラート、緊急停止ボタンの設置など、安全設計が欠かせません。

3. 荷物サイズと重量

例えば「段ボール2箱を一度に載せたい」など、想定する搬送物の最大寸法と重量を具体的に洗い出すことが重要です。

4. 給電・充電スペースの有無

AMRは一定時間ごとに自動充電を行うため、ドックの設置スペースや充電時間の把握も必要です。稼働時間と回転率に影響する要素です。

5. マップ学習のしやすさ(レイアウト変更頻度)

レイアウト変更の多い現場では、再マッピングが必要になる場合があります。SLAM対応モデルであっても、更新のしやすさは確認しておきましょう。

AMR導入のステップフロー(省スペース現場向け)

[課題の明確化]
     ↓
[現場寸法・ルートの計測]
     ↓
[搬送対象と稼働量の整理]
     ↓
[小型AMRの比較・選定]
     ↓
[テスト搬送とレイアウト調整]
     ↓
[本格導入・運用開始]

まとめ:省スペースでもAMRは導入可能

スペースが限られた現場だからこそ、AMRによる省人化・効率化の恩恵は大きくなります。小型AMRは技術的にも成熟し、選択肢も年々増えています。

導入にあたっては、現場の寸法、作業内容、安全性、費用対効果といった多面的な視点から検討を進めましょう。正しい選定と段階的な導入ができれば、狭小現場でも大きな成果を得ることが可能です。