「また搬送ルートが変わるのか…」「今度は何を、どこに運べばいい?」

多品種少量生産の現場では、こうした戸惑いが日常的に発生しています。製品が変わるたびに、必要な部材や搬送ルート、納入タイミングが変化するにもかかわらず、その対応は多くの場合、人手に依存しています。限界のある柔軟対応、作業の属人化、供給遅延によるライン停滞など、現場の効率を阻む要因は枚挙にいとまがありません。

そんな中で注目されているのが、ルート可変型AGV(無人搬送車)の導入です。固定ルートに縛られず、変更の多い現場にも即応できるAGVは、多品種少量生産の新たなパートナーとして、導入が加速しています。

本記事では、関東地方にある従業員150名規模の精密部品メーカーの導入事例をもとに、現場の課題と変化、運用の工夫や導入成果までを詳しくご紹介します。

課題の本質、導入による変化、そして今後の可能性まで——リアルな現場の軌跡を、ぜひご覧ください。

AGV導入前の多品種少量生産の課題

多品種少量生産におけるAGV搬送の効率性問題

組立ラインの横を、手押し台車を押す作業員が往復し続ける日常。大量の歩行による疲労に加え、部材の遅延でラインが止まる場面も珍しくありません。特に部材供給が滞ると、生産全体の流れが断ち切られ、作業者の手が止まり、現場に沈黙と緊張が広がっていきます。

こうした問題は、搬送の柔軟性や再現性の低さから生じます。多品種少量という変化の激しい生産体制において、人手任せの搬送は、構造的な非効率の温床になっているのです。

【図解①】従来の搬送フローにおける非効率の発生ポイント

▼従来の搬送フローと非効率の発生箇所

[部材置場]
   ↓(手押し台車/歩行搬送)
[中間保管棚] ←※往復距離・待機時間が長い
   ↓
[組立ライン] ←※タイミングが合わず作業停滞

中間棚を経由する搬送構造は、在庫過多やタイムラグを生み出しやすく、特に納入のタイミングずれは、生産現場全体の停滞要因になります。

柔軟性の欠如がもたらす生産性低下

生産の切り替え頻度が高まる中で、搬送ルートが固定化されていると、ラインやレイアウトの変更に搬送が追いつかなくなります。誘導テープの貼り直しやセンサ位置の変更に追われることで、現場の混乱と作業の非効率が助長されるのです。

「ラインが変わるたびに搬送がストップする」——この状態は、現場にとって深刻なストレス源でした。結果として、柔軟性のない搬送システムが、生産体制全体の足を引っ張る状況が続いていたのです。

ルート可変型AGV導入による課題解決

ルート可変型AGVが提供する柔軟な搬送方法

ルート可変型AGVは、こうした問題に根本から対応する技術です。あらかじめ設計されたルートを走行するのではなく、ソフトウェア上で走行パターンを動的に変更できるため、製品ごとの供給場所・タイミングの差異に即応できます。

【図解②】ルート可変型AGVの特徴と搬送パターン例

▼ルート可変型AGVによる搬送の柔軟化

┌─────────────┐
│   生産ラインA       │ ← AGV①が直行
└─────────────┘
           ↑
      ┌────────┐
      │ 材料供給エリア │
      └────────┘
           ↓
┌─────────────┐
│   生産ラインB       │ ← AGV②が迂回ルートで対応
└─────────────┘

※路面誘導や磁気テープが不要、ソフト上でルート変更可能

この柔軟性により、ライン変更や急な指示変更にも即時対応でき、搬送タイミングやルート再設定の手間を大幅に削減します。

多品種少量生産対応のためのAGVの選定理由

従来のAGVは、固定ルート前提で運用されるため、生産のたびにレイアウト変更や誘導テープの貼り替えが必要でした。とくに多品種少量生産の現場では、これが毎回2時間以上の段取り替え作業につながり、生産のボトルネックとなっていたのです。

導入されたルート可変型AGVは、こうした手間を完全に排除しました。タブレット上でルート設定を即時変更できるため、段取り替えにかかっていた2時間がゼロになり、その分、生産稼働率が向上しました。

さらに、3名で行っていた搬送作業を、1台のAGVが代替することで、作業者を本来のライン作業に再配置でき、人的リソースの有効活用にもつながっています。

「以前は搬送に1人つきっきりだったが、今では別の工程に回せて助かっている」と現場リーダーも効果を実感しています。

成功したAGV導入事例に学ぶ

ルート可変型AGVによる生産ラインの効率化

関東地方にある、従業員150名規模の精密部品メーカーでは、組立ラインの供給作業を作業者3名で行っていました。とくに午前中のピークタイムには、搬送とライン供給が錯綜し、ラインが5分、10分と止まることもしばしばありました。

導入のきっかけは、現場責任者であるB課長の「このままでは回らなくなる」という危機感でした。初めてルート可変型AGVの提案を受けた際、彼が最初に口にしたのは「ちゃんと指定した時間に届くのか?」という懸念です。

導入後、その不安は払拭されました。AGVが決まったタイミングで部材をラインまで届けるようになり、B課長は「これだけ安定して動くなら、もう人には戻せない」と語っています。

ライン作業員のひとりも、「部材を取りに行く往復がなくなったので、手元の作業に集中できるようになった。精神的にもラクになった」と話しており、導入効果は数字だけでなく現場の満足度にも表れています。

多品種少量生産を支えるための運用フロー改善

【表③】AGV導入前後の運用フロー比較

項目AGV導入前AGV導入後
搬送手段手押し台車、人力運搬ルート可変型AGV
作業者の負荷高(長距離歩行・頻繁な運搬)低(運搬作業から解放)
ライン供給の正確性低(遅延・供給ミスあり)高(定時搬送・ルート自動最適化)
生産計画への追従性低(急な変更に対応困難)高(ルート変更で即対応可能)

可視化されたフローにより、誰でも同じ品質で搬送作業ができる環境が整いました。

AGV運用設計における重要なポイント

生産ラインとAGVの最適な連携設計

AGVがただ動くだけでは、ラインと連携が取れなければ意味がありません。導入現場では、AGVとのインターフェース設計を見直し、各ステーションとの信号連携を精密に構築しました。

【図解④】AGVとラインの連携ポイント図

▼AGV連携設計の基本構造

[AGV充電・待機エリア]
         ↓
  (自動呼出システム)
         ↓
[供給ステーション] ──→ [生産ライン] ←→ [回収エリア]

※各ステーションとのインターフェースはセンサ・信号制御により最適化

これにより、供給タイミングがズレることなく、ライン全体が安定して稼働できるようになりました。

柔軟性を確保するための運行スケジュール調整

AGVの柔軟性を活かすには、運行スケジュールの最適化が不可欠です。とくに複数ラインを運用する現場では、呼出の優先順位や供給のタイミングを、ライン側と連動させる必要があります。

AGVの稼働ログを分析することで、現場では「この時間帯は2台運行が必要」など、定量的な運用判断が可能になりました。結果として、余分な台数や無駄な走行を抑えつつ、必要なタイミングでの供給が維持されています。

AGV導入後の成果と今後の展望

多品種少量生産対応による生産性向上

AGV導入により、部材供給の安定性が向上し、生産ラインの停止リスクが大幅に軽減されました。作業者1人あたりの搬送距離は1日で4km以上削減され、歩行に費やしていた時間が、ほぼゼロに近づいています。

また、搬送作業から解放されたことで、ライン作業に集中できるようになり、製品1台あたりの作業時間も平均8%短縮されるという成果が得られています。

AGV導入後の課題解決と将来の拡張性

今回導入されたのは、千葉県内にある従業員150名規模の工場。現在は部材供給を中心にAGVを運用していますが、将来的には以下のフェーズを描いています。

【表⑤】AGV導入による課題解決と今後の拡張フェーズ

導入フェーズ段階内容現場の声
フェーズ1(導入)部材供給のAGV化で搬送の自動化「人手から解放されて本来業務に集中できる」
フェーズ2(定着)ライン連携最適化・運行スケジュールの自動化「今ではAGVがいないと困る」
フェーズ3(拡張)仕掛品搬送、完成品搬送、夜間自動稼働への展開「次は他ラインも任せたいと考えている」

現時点でも、仕掛品搬送への展開が試験運用されており、夜間自動搬送を含む24時間体制への拡張も検討中です。導入企業の設備管理責任者は、「AGVは単なる搬送機ではなく、全体最適を進める“フローの中核”としての位置づけが重要」と述べており、部分最適では終わらない導入戦略が見て取れます。

まとめ|AGVによる多品種少量生産対応の成功要素

多品種少量生産における最大の課題は、変化への即応性と再現性の両立です。人手に依存する搬送では、それが叶わず現場の混乱や停滞を招いていました。

ルート可変型AGVは、こうした構造的な問題を克服し、現場に柔軟性・安定性・効率性をもたらしました。技術だけでなく、運用設計や人的連携が整備されたことにより、搬送のストレスが取り除かれ、ラインの流れが滑らかに統合されました。

導入フェーズから定着、そして拡張へ——現場の声に耳を傾けながら段階的に実装する姿勢こそが、成功の鍵と言えるでしょう。

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