現場の自動化を進めるうえで、よく挙がる2つの選択肢——AMR(自律走行搬送ロボット)と協働ロボット(コボット)。
どちらも「人手不足の解消」「作業の効率化」を支える技術として注目されていますが、
その違いや役割の境界線は、意外と分かりにくいのが実情です。
「AMRと協働ロボットって何が違うの?」
「自社にはどっちが向いているの?」
「併用するとどんな効果があるの?」
こうした疑問を抱えたまま、導入をためらっている担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では、AMRと協働ロボットの違いをわかりやすく整理したうえで、
それぞれの役割、導入メリット、現場での活用例、そして選定の考え方までを解説します。
自社に最適な選択をするための第一歩として、ぜひご活用ください。
AMRとは?現場を走る「搬送のプロ」
AMR(自律走行搬送ロボット)の定義と特徴
AMR(Autonomous Mobile Robot)は、地図情報やセンサーを用いて自律的に経路を判断しながら搬送作業を行うロボットです。従来のAGVと異なり、あらかじめ設定されたルートではなく、環境をリアルタイムに認識して柔軟に移動できます。これにより、工場や倉庫のレイアウトが変わっても再プログラミングの手間を最小限に抑えられるのが特長です。
主な活用シーン
- 倉庫内の棚間搬送(ピッキング・保管)
- 工場内ライン間搬送(部品や製品の移動)
- ピッキング・配送前工程の仕分け
これらの作業において、AMRは「人の代わりに運ぶ」役割に特化しており、特に人手不足や作業効率の改善が求められる現場に適しています。
AMRについてもっと詳しく知りたい方は、AMRとは?自律搬送ロボットの仕組み・特徴・導入メリットをやさしく解説 もご覧ください。
協働ロボットとは?人と共に働く柔軟な作業パートナー
協働ロボットの定義と特徴
協働ロボット(コボット)は、人と同じ空間で安全に作業できるよう設計されたロボットで、主にアーム型が主流です。人の腕のように動く多関節構造を持ち、繊細な作業や手作業の代替を得意としています。安全柵なしでも運用できるため、柔軟なレイアウトや狭い作業スペースでも導入しやすいのが魅力です。
主な活用シーン
- ネジ締めやはんだ付けなどの軽作業
- 検査・組立工程での繰り返し作業
- 作業者の負担軽減や補助的な作業
協働ロボットは「人と一緒に働く」ことを前提として設計されており、作業者の安全と効率の両立を実現します。
AMRと協働ロボットの違いを表で比較
以下の比較表により、AMRと協働ロボットの機能や導入目的の違いがひと目でわかります。
比較項目 | AMR(自律走行搬送ロボット) | 協働ロボット(アーム型) |
---|---|---|
主な役割 | 搬送作業に特化 | 組立・検査・ネジ締めなどの作業を担当 |
動作範囲 | 自律移動可能(工場内・倉庫内を走行) | 固定された場所で稼働することが多い |
移動性 | 高い(障害物回避・マップ生成が可能) | 基本的には定点設置(移動は別装置が必要) |
人との協働性 | 人とすれ違う前提だが、作業自体は分離されている | 同じ空間で人と共同作業が可能(安全設計あり) |
導入目的 | 搬送工程の自動化・省人化 | 精密作業の自動化・人手不足対策 |
主な活用現場 | 物流倉庫、製造工場の搬送ライン | 組立ライン、検査工程、小型加工セルなど |
導入コストの傾向 | 比較的安価(機種による) | アームの自由度により価格は幅広い |
現場での役割分担|併用による生産性向上も
AMRと協働ロボットはそれぞれ得意分野が異なりますが、組み合わせて活用することで工程全体の自動化・効率化が可能になります。以下はその一例です。
搬送 → 受け取り → 作業 → 次工程へ
AMR → 協働ロボット → 協働ロボット → AMR
このような連携により、「人が間に入らなくてもモノが流れる」環境を構築することができます。特に生産性向上・人手不足対策・品質安定の面で大きな効果が期待できます。
AMR+協働ロボットの組み合わせ事例と効果
以下は、導入前後での工程の違いをシンプルに示した例です。
【導入前】
人が搬送 → 人が取り出し → 人が組立 → 次工程へ
【導入後】
AMRが搬送 → 協働ロボットが受取 → 組立 → AMRが搬送
このように併用することで、省人化だけでなく、工程の一貫性・品質の安定にも寄与します。さらに、作業者はより高度な判断や管理業務に集中できるようになり、現場全体のスループットが向上します。
導入メリットと注意点
AMRの導入メリット
- 柔軟なルート変更に対応できる
- 現場変更に強く、レイアウト再設計が容易
- ローコストモデルも多く、導入障壁が比較的低い
協働ロボットの導入メリット
- 高精度な作業を自動化できる
- 安全柵不要でスペース効率に優れる
- 教示や動作プログラムが簡単で現場でも扱いやすい
共通の課題・注意点
- 安全設計とゾーン管理が必要(特に初期設計)
- 設置・試験運用に時間がかかる場合あり
- 初期費用とROIの試算は必須。段階導入も視野に
自社の現場に当てはめるとどうなる?導入シミュレーションのススメ
自社にどちらが向いているか簡単に判断できるフローチャートを以下に示します。
Q1:搬送の頻度は多いですか? → YES → AMRを検討
↓
NO → Q2:人との共同作業が多いですか? → YES → 協働ロボットを検討
↓
NO → 他の自動化設備を検討
このようなシミュレーションを行うことで、現場に本当に必要なロボットを見極めることができます。
よくある質問|AMRと協働ロボットに関する疑問を解決
- AMRと協働ロボットは同じ現場で使える?
使えます。AMRで搬送、協働ロボットで作業を担うなど、互いの役割を補完する運用が可能です。実際、多くの工場・物流拠点では「搬送はAMR」「細かい作業は協働ロボット」という分担が浸透しています。
- 導入にはどれくらいの期間がかかる?
AMRは数週間~数か月、協働ロボットは周辺設備との調整次第で数か月が一般的です。導入前には事前検証やPoC(概念実証)を行うとよりスムーズです。
- 安全面はどう確保されている?
両者ともにセンサーや停止機構を標準搭載しており、ISOや国内ガイドラインに沿った設計がされています。特に協働ロボットは衝突検知・緊急停止などの機能を備えており、人と安全に共存できます。
【まとめ】それぞれの特性を理解し、現場に最適な選択を
- AMRは「移動・搬送」、協働ロボットは「作業」を担う役割特化型ロボットです。
- 現場の作業内容と自動化の目的に応じて、単体導入だけでなく併用も検討する価値があります。
- 自社の課題を可視化し、導入シミュレーションを踏まえて選定を進めることが重要です。
▼作業目的で選ぶ
搬送したい → AMR
作業したい → 協働ロボット
両方したい → 組み合わせで検討
まずは、両者の違いや導入メリット・注意点を資料で確認してから、自社に合った検討を始めてみましょう。