AGV(無人搬送車)の導入で成果を上げる企業と、導入後にトラブルを抱える企業の違いはどこにあるのでしょうか。その分かれ目は、“導入前の現場ヒアリングの精度”にあります。AGVは単なるロボットではなく、現場との適合が求められるシステム全体の一部です。そのため、事前の聞き取りと要件整理が極めて重要です。

この記事では、現場に即した要件整理を進めるためのヒアリングの視点・手順を、これまでにない切り口で詳しく解説します。

立場別に異なるヒアリング視点を持つ

AGV導入プロジェクトには複数の関係者が関与します。誰が、どの視点でヒアリングすべきかを明確にすることで、情報の抜け漏れやミスマッチを防ぐことができます。

現場担当者

  • 実際の作業動線や障害物、人的作業との共存に関する情報
  • AGVの通行スペース、通路幅、作業者の動き
  • 現場ならではの慣習や作業上の注意点(例:特定時間帯のみ使用可能な通路など)

システム担当者

  • 通信インフラ(Wi-Fi、5G)の状況と安定性
  • WMSやMESなどの既存システムとの連携の可否、APIやI/Oの仕様
  • AGV導入にあたって必要なネットワーク・電源・センサー配置の再設計可能性

管理者・経営層

  • 投資対効果(ROI)や人員最適化への期待
  • 複数拠点での横展開や将来的な自動化構想
  • 保守コストやサポート体制、現場でのトラブル発生時の対応スピード

ヒアリング5カテゴリの全体像と流れ

AGV導入前に確認すべき情報は、大きく以下の5カテゴリに分類されます。それぞれのカテゴリは独立しているように見えて、相互に強く関係しています。

カテゴリ主な確認内容
現場環境床材、段差、通路幅、照明、屋内外の区別
搬送対象・荷姿荷物のサイズ、重量、荷姿(パレット・箱)、温度条件など
業務プロセス搬送ルート、作業タイミング、人との協調作業の有無
システム・設備連携WMS、エレベーター、自動扉などの既存設備との連携可否
将来の運用構想AGV台数の増加、レイアウト変更、他工程への拡張可能性

ヒアリングは、上記のカテゴリを横断しながら、できるだけ現場に足を運び、現物・現場・現実(いわゆる「三現主義」)に基づいて進めることが大切です。

カテゴリ別チェックポイントと現場で起こる失敗例

各カテゴリについて、現場でのよくある確認ポイントと、失敗事例から学ぶべき注意点を紹介します。

現場環境

  • 床材の凹凸やスロープの有無(滑りやすさ、段差の許容値)
  • 実測による通路幅の確認(図面だけで判断しない)
  • 人との交差ポイントの有無、混在環境下での安全対策

失敗例: 「通路は広いです」と口頭で確認したが、実際は柱や備品がありAGVが旋回できず導入を断念。

搬送対象・荷姿

  • 荷物のサイズ・重量・形状を写真付きで分類(特に高さ制限)
  • 積み降ろし方式(手動、自動、リフター、ローラーなど)
  • 搬送対象の取り扱い注意事項(壊れやすい、温度管理が必要 など)

失敗例: 「段ボール」とだけ回答したため、10種類以上ある荷姿の搬送条件に対応できず追加費用が発生。

業務プロセス

  • ピッキング〜出荷までの流れを図解化(どこで誰が何をするか)
  • AGVが稼働すべきタイミングと頻度(定時運行かオンデマンドか)
  • ピーク時間帯の確認(1日・週・月単位で波があるか)

失敗例: 作業時間と搬送タイミングのズレにより、AGVが待機状態になる時間が多発。

システム・設備連携

  • 既存システムとの連携方法(API、I/O制御、データ仕様の確認)
  • 扉やエレベーターとのインターフェースの有無(センサー・信号の仕様)
  • 緊急停止や障害時の制御ルール

失敗例: エレベーターとAGVの連携が想定外の仕様で、現場で大規模な改修が必要に。

将来の運用構想

  • レイアウト変更の可能性とその時期(移転・棚変更など)
  • 今後の増設や他工程への展開予定(単線→多台数への移行可否)
  • 増設時の費用試算と対応可能な機種の選定

失敗例: 増設を想定していなかったため、最初のAGV設計が拡張に対応できず再設計・再投資が必要になった。

要件整理を成功させるための3つのコツ

理想と現実を分けて考える

「できたらいいな」という理想と、「今この現場で本当に必要なこと」は分けて整理する必要があります。過剰な要望はコストや失敗のリスクを高める原因にもなります。

仮想シナリオで1日の動きを可視化する

例えば「8時〜17時の間に30回搬送する必要がある」「ピーク時は5分間隔で搬送」など、具体的なスケジュールを組むことで、最適なAGV台数・ルート設計が可能になります。

図・写真・動画を活用して資料化する

現場の状況は文章だけでは伝わりにくいため、必ず視覚的な資料を残しましょう。スマートフォンでの撮影でも構いません。動画や図面、現場写真をセットにすることで、ベンダーとの情報共有もスムーズになります。

情報の整理と共有で失敗を防ぐ

ヒアリングした情報は、単なるメモで終わらせず、必ず「資料」として整理しましょう。ベンダーに送ることで、具体的な提案や見積りの精度が大きく向上します。

資料名内容例
現場写真・動画通路、障害物、作業者の動き
レイアウト図面搬送ルート、通路幅、障害物の位置など
要件整理シート5カテゴリに分類したヒアリング内容の一覧
搬送業務シナリオ時間帯ごとの搬送スケジュールと数量

これらを事前に揃えておくことで、導入前の打ち合わせ・現地調査が短時間で済み、導入後のズレも最小限に抑えられます。

まとめ|ヒアリング精度がAGV導入成功のカギになる

AGV導入は単なる機器導入ではなく、現場全体を見直すプロジェクトです。導入前にどこまで現場の実態を把握できるかが、失敗を防ぎ、最大の効果を引き出す鍵となります。立場別の視点を取り入れ、カテゴリ別に情報を整理し、ベンダーとの正確な共有を意識しましょう。