「AGVを導入したのに、なぜヒヤリ・ハットがなくならないのか?」
「センサーを付ければ安全だと思っていたのに、人と接触しそうになった」

AGV(無人搬送車)は、生産性向上や省人化の切り札として注目されていますが、一方で「安全性」に関する不安やトラブルは尽きません。実際、現場では次のような声が上がっています:

  • AGVが作業員の足元ギリギリを通過してヒヤッとした
  • QRコードの汚れで誤搬送が発生
  • センサーがあるのに障害物に衝突した

こうした事故や誤作動は、単に機械の問題ではなく、「現場に合った安全設計やセンサー活用ができていない」ことが原因で起こることが多いのです。

本記事では、AGVの安全設計に欠かせないセンサー技術や制御の考え方、そして実際のトラブル事例とその教訓をもとに、どうすれば“安全に使いこなせるAGV”を実現できるのかを徹底解説します。

AGVを「便利な機械」ではなく、「現場に根付いた安全なパートナー」として運用するための知識を、ここで整理しましょう。

AGVにおける主な安全リスクと発生要因

障害物との衝突

AGVが棚や壁、他の車両などの障害物に気づかずに衝突すると、設備や商品の損傷、人身事故につながる恐れがあります。特に、狭い通路やカーブの多いレイアウトでは注意が必要です。

人との接触

倉庫内や工場内では、人とAGVが同じスペースで作業する場面が多く、死角や見通しの悪い交差点での接触リスクが高まります。作業員がAGVの接近に気づかないケースも多く見られます。

誤搬送・ルート逸脱

QRコードや磁気テープの読み取り不良、ナビゲーションシステムの設定ミスによって、AGVが誤ったルートを進行し、誤った場所に部材や製品を運んでしまう事例があります。

通信エラー・制御不能

無線LANの不安定な環境では、AGVと管理システムの通信が途切れ、指示が伝わらずに停止や暴走状態になることがあります。これらはシステム全体の安定性にも関わります。

安全設計を支えるセンサー技術の全体像

主なセンサーとその役割

以下の表は、AGVに搭載される代表的なセンサーの種類と、それぞれの役割をまとめたものです。センサーの選定や配置によって、安全性能は大きく変わります。

センサー種類主な役割得意な検知範囲注意点
LiDAR(レーザー)周囲の障害物を高精度に検知数メートル範囲(360度)コストが高く、環境光に影響される場合あり
超音波センサー近距離の障害物検知約0.1〜2mガラス・斜面など検知しにくい物あり
カメラ(ビジョン)画像処理による人物・QRコードの検出数m先〜中距離処理負荷が高く、暗所では精度が落ちる
バンパーセンサー接触時の緊急停止直接接触時接触してから止まるため一次被害が出る
安全用PLC異常発生時のフェイルセーフ制御全体制御ソフト・ハードの両立設計が必要

AGVの安全走行を支える設計と制御技術

安全マージンと減速ゾーンの設計

AGVが障害物や人に近づいたときに自動で速度を落としたり、停止したりする仕組みは、安全設計の基本です。LiDARや超音波センサーと連動し、徐行・停止を制御します。エリアごとに走行速度を変える「ゾーン制御」も活用されます。

危険エリアのゾーニングと走行制限

例えば、フォークリフトが頻繁に出入りするスペースや人の出入りが多い開口部などは、AGVが進入しないように設定する必要があります。これにより、リスクの高いエリアへの誤進入を防げます。

異常検知時の自動停止・通知機能

センサーが異常を検知したとき、AGVは自動で安全に停止し、管理システムに即座に通知される仕組みが重要です。これにより、重大な事故に発展する前に対処が可能になります。

【テキスト図解】AGVのセンサー配置と安全対応エリア

【AGV本体センサー配置図(上から見た図)】
┌────────────────────┐
│               カメラ(QR検知・人物識別)               │
│                                                    │
│  超音波  ◀── 前方 ──▶  超音波          │
│                                                    │
│     バンパー   [AGV本体]   バンパー               │
│                                                    │
│  LiDAR(360度)中央設置                             │
└────────────────────┘
【安全運用エリア設計イメージ】
┌─────────────┐
│ 危険エリア(立ち入り禁止)  │ → AGV進入不可ゾーン(赤)
├─────────────┤
│ 減速エリア               │ → AGV徐行エリア(黄)
├─────────────┤
│ 通常走行エリア            │ → 通常ルート(青)
└─────────────┘

実際にあった接触事故と対策の失敗例

ケース:搬送中に作業員の足と接触

  • 原因:超音波センサーの死角に作業員が入っていた
  • 影響:軽傷だが、稼働停止と報告対応で半日ロス
  • 教訓:センサーの配置だけでなく、現場側の動線設計や作業員の教育も重要である

ケース:ルート誤認識による誤搬送

  • 原因:QRコードの汚れにより、ナビゲーションが誤作動
  • 影響:異なる工程へ部材が誤搬送され、ライン停止
  • 教訓:センサー頼みではなく、物理環境の管理(清掃・照明調整など)も含めたトータルな安全設計が求められる

今後の安全技術トレンドと選定のポイント

協働型AGVの台頭

人と同じ空間で動く前提の協働型AGVが普及しています。人の動きを予測して速度を調整する、手を挙げる動作を認識して停止するなど、より高度な人検知・動作判断が進化中です。

センサー冗長化とAI判断の融合

複数のセンサーを組み合わせて情報をクロスチェックする「冗長設計」は、誤検知・見逃しリスクを減らす効果があります。AIによる映像解析やパターン学習により、現場ごとの最適な動作判断も可能になりつつあります。

安全規格(ISO3691-4など)の対応有無を確認

信頼できるAGVを選ぶ際は、安全規格への対応状況をチェックしましょう。機械本体のスペックだけでなく、運用設計やフェイルセーフ構成など、総合的な安全対策がなされているかが重要な判断ポイントです。

人と共存できるAGVとして注目されているのが、協働ロボット搭載型AGVです。


作業者との距離感や安全確保の仕組みについて詳しく知りたい方はこちら。
協働ロボット搭載AGVとは?作業者と共存する自動搬送の仕組みと導入のポイント

まとめ|AGVの安全性は「センサー+運用設計」で作られる

AGVの安全性を高めるには、単に高性能なセンサーを搭載するだけでは不十分です。センサーが正しく機能するように物理環境を整え、作業員の動線や教育、管理システムとの連携など、総合的な安全設計が求められます。

導入を検討する際は、製品スペックだけでなく「現場に応じた安全設計の実績」や「運用支援体制」にも目を向けましょう。事故を未然に防ぐための第一歩は、正しい知識と準備から始まります。