AGV(無人搬送車)を導入する際、多くの企業が見落としがちなのが「速度」に関する正確な理解と設計です。
「とにかく速い方がいい」「遅いと使い物にならない」という誤解から導入後に「思ったより生産性が上がらない」「混在環境で事故のリスクが高まった」など、現場での課題を抱えてしまう企業も少なくありません。
本記事では、AGVの平均的な速度や影響要因、運用における最適な速度設計の考え方に加え、代表的な製品ごとの比較、さらにはフォークリフトやAMRとの違いについても徹底解説します。導入前に知っておくことで、大きな失敗を防ぎ、最適な運用設計と機種選定に役立つはずです。
これからAGVを導入しようとしている方、すでに導入済みで課題を感じている方のどちらにも役立つ実践的な内容です。
AGVの平均速度はどれくらい?導入現場で失敗しないための基準を解説
工場・倉庫などの一般的な速度帯(10〜60m/min)
AGV(無人搬送車)の走行速度は、その導入現場の性質に強く依存します。たとえば、直線的な搬送ラインが中心となる自動車部品工場や電子部品組立ラインでは、40〜60m/minといった比較的高速なAGVが選ばれる傾向があります。一方で、人が同じ通路を歩くような倉庫内ピッキング作業エリアでは、速度を10〜20m/min程度に抑え、安全性を優先した運用がなされています。
この違いは単なる「制御の都合」ではなく、実際に起きうるリスクとコストを踏まえた上での設計判断です。仮にスピードを優先して事故や接触が発生した場合、人的被害や生産ライン停止といった大きな損失に繋がります。そのため、「AGVにどれくらいの速度が必要か」は、単なるスペック比較ではなく、現場の運用シナリオから逆算する必要があるのです。
また、速度の上限が高くても、「減速ポイント」が多い現場では平均速度は大幅に下がるため、導線の設計次第で同じAGVでも搬送効率は大きく変動します。この点も、導入前のシミュレーションと設計検証が不可欠な理由です。
速度の単位(m/min・m/s)と読み解き方
AGVの速度は主に「m/min(メートル毎分)」または「m/s(メートル毎秒)」で表記されます。たとえば、AGVのカタログに「最大速度:1.2m/s」と記載がある場合、これは「72m/min」に相当します。この違いは単位の換算ミスによる認識ズレを招きやすく、選定時の代表的な見落としポイントでもあります。
速度単位に慣れていない場合、「m/min」は「1分間でどれだけ移動できるか」という搬送計算に直結しやすく、現場設計者にとっては扱いやすい指標です。一方、制御エンジニアやソフトウェア開発側では、より細かい制御が必要なため「m/s」を用いることが多くなります。どちらの単位が使われているかを確認し、自社の運用シミュレーション単位に揃えて読み替えることが重要です。
搬送用途別の平均速度表(直線搬送・ピッキング・屋外用途)
以下では、代表的なAGV導入シーンにおける速度の目安と設計意図を一覧化しました。これは単なる仕様比較ではなく、現場で実際に採用されている速度設定に基づいた参考値です。
用途カテゴリ | 平均速度(m/min) | 設計意図と運用条件 |
---|---|---|
工場内搬送 | 30〜50 | 直線ルート中心、搬送距離が長くスループット重視 |
倉庫内ピッキング | 10〜20 | 人との共用エリア、安全速度設定が前提 |
屋外大型搬送 | 20〜40 | 勾配・段差対応が必要、雨天や不整地走行の影響あり |
この表は、導入検討時に「自社現場ではどの速度帯が適切か」を考える際の出発点となります。重要なのは、平均速度が単なるスペックではなく、安全・効率・制御可能性のバランスによって設定されているという点です。
AGVの速度はカタログに記載された「最大速度」ではなく、実際の稼働ルートや環境で得られる「平均実行速度」こそが設計の鍵です。
現場が複雑で人との接触リスクが高ければ、どれだけ高性能なAGVでも安全のために減速され、結果的に効率は落ちます。逆に、導線が明確で交差が少なければ、多少スペックが控えめな機種でも高効率な運用が可能です。
AGVの走行速度を左右する要因とは?導入前に知るべき設計ポイント
AGVのカタログスペックに記載されている「最大速度」は、実際の運用環境ではそのまま適用されるわけではありません。導入現場の設計や制御の条件次第で、速度は大きく制限されることがあり、搬送効率や安全性にも直結します。
このセクションでは、AGVの速度に最も大きな影響を与える5つの代表的な要因について解説します。単なる仕様比較にとどまらず、現場での「使える速度」を見極めるための実務的な視点を提供します。
積載重量と加減速の関係
AGVに搭載される荷物の重量が重くなると、加速・減速の制御にかかる物理的負荷が大きくなります。特に停止時の慣性によって、指定の停止位置で止まれなかったり、急停止によって荷物がずれたりするリスクが生じます。
そのため、重量物を搬送する場合は、速度上限そのものを落とした制御設定が必要になります。導入前には、対象物の最大重量を正確に把握し、動的条件も含めた速度設計を行う必要があります。
ルートの構造(直線・カーブ・交差点)
AGVが走行するルートが直線で構成されていれば、比較的高い速度を維持しながら安定した搬送が可能です。しかし、カーブや交差点、合流ポイントが多いルートでは、減速や一時停止が頻繁に必要になります。
特にカーブ通過時には、転倒や内輪差による接触を避けるため、通常走行時の30〜50%程度まで速度を落とす設計が一般的です。これはルート設計次第でAGVの平均搬送速度が大きく変わることを意味しており、見落とすべきではありません。
床面材質・勾配・環境(屋内外)
AGVの速度に最も影響を及ぼす物理的な環境要因の一つが床面状況です。たとえば、滑りやすい塗床、段差のあるコンクリート、傾斜のあるスロープなどでは、速度を抑制しないとブレーキ距離が延びたり、荷物が不安定になったりするリスクが高まります。

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また、屋外環境では雨天時のグリップ低下や風の影響にも配慮する必要があり、基本的には屋内よりも速度を下げて運用されるのが通例です。
障害物検知・安全センサーの設定
多くのAGVには、障害物を検知するためのレーザーセンサーや超音波センサーが搭載されています。これらのセンサーは、一定距離内に人や物体が接近すると自動的に減速または停止する制御を行います。
検知範囲が広い場合や感度設定が高い場合には、比較的遠い距離でも減速指令が発せられるため、結果的に体感速度が下がります。導入現場の通路幅や共存作業者の動線に応じて、最適なセンサー設定と速度調整を行うことが欠かせません。
制御システム(走行アルゴリズム、群制御の有無)
AGVを複数台運用する場合には、群制御によって台数間の譲り合いや優先順位付けが行われます。例えば、交差点に複数のAGVが同時に接近する場面では、一方が停止し、もう一方が通過するように制御されるため、平均的な搬送速度が低下することがあります。
また、行き先の切り替えや経路選択アルゴリズムの精度も速度に影響します。制御システムの特性に応じて、運用全体の流れと個別AGVの速度のバランスを調整する設計が求められます。
AGVの速度に影響する要因一覧
以下の表では、AGVの速度に大きな影響を与える主な要因を整理し、影響度と具体的な内容をまとめています。
要因 | 影響度 | 内容例 |
---|---|---|
積載重量 | 高 | 重量が増えるほど加減速が鈍くなり、速度制限が必要となる |
走行ルート構造 | 中 | 曲がり角や交差点では減速設定が必要で、平均速度が下がる |
床面状態 | 中 | 滑りやすさ、段差、勾配などの床条件により速度が制限される |
障害物検知センサー | 高 | 安全確保のために広範囲で検知する場合、減速や停止が頻発する |
制御システム(群制御など) | 中 | 群制御や経路選択により待機・減速が発生し、平均速度に影響を及ぼす |
この表に記載した要因は、現場の制御設計と運用ルールによって相互に影響し合います。速度設計は単独で決めるものではなく、搬送距離、通行頻度、安全ルールなどすべての要素を加味した「統合的な搬送計画」として設計する必要があります。
導入前には、各要因の制約をシミュレーションで可視化し、実効性の高い速度設計を行うことが不可欠です。
AGVの速度に影響を与えるルート構造や走行制御は、使用する走行方式にも大きく依存します。駆動・誘導の選定ポイントについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
AGVの速度と業務効率の関係|速さだけが正解ではない理由
AGV(無人搬送車)の導入効果を最大化するには、「速度を上げれば効率も上がる」という単純な考え方では対応しきれません。
むしろ、速度が高すぎることで発生する制御の複雑化や事故リスクの増加が、結果として業務効率を下げてしまうケースも多く見られます。このセクションでは、AGVの速度がどのように搬送サイクルや稼働率、安全性に影響を及ぼすかを実務視点で解説します。
速度が搬送サイクルに与える影響
AGVの搬送サイクルは、単位時間あたりの効率を左右する核心的な指標です。速度が変わることで、1サイクルの所要時間がどう変動するのかを以下のモデルで示します。
例:搬送距離 60m/速度 30m/min の場合
↓【片道搬送時間】
60m ÷ 30m/min = 2分
↓
【往復搬送時間】
2分 × 2 = 4分
↓
【積み下ろし時間】
1分(想定)
↓
【1サイクル合計】
4分 + 1分 = 5分
↓
【1時間あたり搬送回数】
60分 ÷ 5分 = 12回
このように速度を上げればサイクル時間は短縮できますが、搬送物の種類や安全ルールに応じて、無制限に速度を上げられるわけではありません。また、AGVが複数台稼働する環境では、他車との干渉や交差の発生が平均速度を低下させる要因にもなります。
速度と搬送効率・稼働率のバランス
単純に高速化を図れば生産性が向上する、という誤解は非常に危険です。AGVの最適速度は、単独走行時の理論値ではなく、実際の現場運用における「平均搬送時間」と「稼働率」の兼ね合いで決まります。
例えば、交差点が多いレイアウトや複数AGVが集中稼働するピッキングエリアでは、急ブレーキや待機が頻発し、結果としてスムーズな流れが阻害されます。速度が高すぎることで減速や加速が頻繁に生じ、バッテリー消費も早まるため、充電サイクルの増加による稼働率低下にもつながりかねません。

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重要なのは、速度そのものではなく、「搬送リズムの安定性」や「停止精度」といった要素を含めたトータル効率です。
安全性やヒューマンエラーとの兼ね合い
速度と安全性はトレードオフの関係にあります。特に人とAGVが共存するエリアでは、視認性の問題、音による気づき、予測可能な動作などが安全確保の要件となります。速度が速すぎると、作業者との接触リスクが高まり、万一事故が発生すればAGV導入の信頼性自体が揺らぎます。
また、速度が速すぎることで、オペレーターや現場作業者がAGVの動作に対して警戒を強め、「使いづらい」「怖い」と感じてしまえば、本来期待されていた協働効率は大きく損なわれます。これは、導入したAGVが現場に定着しない典型的な要因のひとつです。
このように、AGVの速度設定はただの数値設定ではなく、「人と機械の協働」を成立させるための設計思想そのものであると考えるべきです。
速度を追求し過ぎた結果、制御エラーやセンサー検知ミスによる現場トラブルが起きるケースもあります。具体的な原因事例とその防止策については、こちらのトラブル対策マニュアルをご覧ください。
速度別に見る!代表的なAGV製品とその用途特性
AGV(無人搬送車)を選定する際、「どれくらいの速度が出るか」は重要な比較ポイントの一つです。
しかし実際には、速度だけで製品を評価することは不十分であり、「どんな環境で、どのような搬送を担うのか」という目的との整合性が最も重要です。このセクションでは、代表的なAGV製品の速度と用途特性を整理した上で、現場に合った選定のポイントを深掘りしていきます。
製品ごとに異なる速度と得意分野
AGVは製品によって速度性能が大きく異なります。高速搬送に特化した機種もあれば、段差対応や狭所走行に適したモデルもあり、選定基準は多様です。以下に代表的な機種の比較表を提示します。
製品名 | 最大速度 | 主な用途特性 | 備考 |
---|---|---|---|
HIKROBOT MR‑Q3‑600CE‑C(HI) | 2.0 m/s(120 m/min) | 高速搬送、屋内向け | 高頻度搬送、大規模倉庫や工場向け |
TKS V2000 | 0.67 m/s(40 m/min) | 屋外・重量物対応 | 段差や雨天に対応、最大積載2トン |
HEADS HRT‑M400 | 0.65 m/s(39 m/min) | 狭所対応・低床搬送 | 台車潜り込み式、小規模構内や狭小ルートに適応 |
この表からも分かるように、AGVは単に速度だけではなく、運用環境や荷物特性とのマッチングが極めて重要です。
例えば、120 m/minという高速性能を持つHIKROBOTの機種も、カーブが多く交差点が多いレイアウトでは、その性能を十分に発揮できない可能性があります。逆に、狭所対応のHEADS HRT-M400のような低床型は、人との混在環境や省スペース搬送で真価を発揮します。
速度だけでなく「どの現場に合うか」が重要
カタログスペックで見ると高性能なAGVでも、導入現場の特性に合っていなければ、稼働率や安全性に悪影響を及ぼす可能性があります。
例えば、人の多い倉庫内で高速走行させることはリスクが高く、むしろ低速で確実に止まれるセンサー制御の精度の方が重要です。導入目的と現場構成を事前に可視化し、必要な搬送速度と現実的に得られる速度のギャップを把握することがポイントです。
同じAGVでも構造によって得意な走行環境が異なります。主要パーツの構造と機能の違いについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
機種選定は用途とレイアウト次第で変わる
AGVはあくまで「手段」であり、「何をどう運ぶか」が本質です。AGV選定においては、搬送物の重量・形状・距離・搬送頻度といった要素に加え、ルートの幅員・カーブ角度・交差数・人との接触リスクなどを総合的に評価する必要があります。高速性能や積載重量だけで判断するのではなく、「現場での走行再現性があるか」という視点で各機種を比較しましょう。
AGV導入の成功は、単なるスペック比較ではなく、現場の制約と搬送要件をもとにした“設計の整合性”で決まります。
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AGVは他の搬送手段と比べて遅い?フォークリフトやAMRとの速度比較
AGVの導入を検討する際、比較対象として必ず挙がるのが、既存の搬送手段であるフォークリフトや、より柔軟性に富んだ次世代搬送ロボットであるAMR(Autonomous Mobile Robot)です。
それぞれの搬送速度や運用特性には違いがあり、自社にとって最適な選択肢を見極めるためには、単なる速度だけでなく運用の質も踏まえた比較が欠かせません。
フォークリフト・AMRとの比較表
ここでは、AGVと他の主要な搬送手段であるAMR・フォークリフト(有人)を比較し、それぞれの速度目安と特徴を整理しました。
搬送手段 | 速度目安(m/min) | 特性 |
---|---|---|
AGV(無人搬送車) | 10〜60 | 自動運転で安定性が高く、安全性が高い |
AMR(自律移動ロボット) | 20〜50 | 柔軟な経路変更と自己判断による対応力がある |
フォークリフト(有人) | 80〜120 | 高速搬送が可能だが、操作者の技量に依存しリスクも伴う |
フォークリフトは速度面で優れますが、安全性や人的コストの課題があります。AMRは柔軟性に優れるものの、設置コストや初期設定の複雑さが伴います。AGVは安定性とコストパフォーマンスのバランスに優れ、ルートが固定化された環境では高い効率を発揮します。
「速度」よりも重要な選定基準とは?
AGVやAMRの導入にあたっては、カタログスペックに記載された最高速度よりも、実際の運用現場で求められる「運用再現性」がより重要です。たとえば、搬送中に障害物に遭遇した際、柔軟に経路変更できるAMRは優れた判断力を発揮します。一方で、シンプルなルートが中心の現場であれば、AGVの安定走行性が最大の強みになります。
また、最近では「トラブル時にすぐ復旧できるかどうか」「人との混在エリアで停止判断が確実か」「通信断が起きても自律運行できるか」など、速度以外の要素に注目が集まっています。

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こうした要素は、実際の稼働率やトラブル件数、作業者の心理的負荷にも影響を与えるため、選定時には定量評価と合わせて定性的な運用レビューも行うべきです。
搬送手段の比較は、速度だけでなく「どのような現場特性にフィットするか」という視点で考えることが、導入の成功に直結します。
AGV導入時の速度設計で押さえるべきポイント
AGVの導入において、速度設定は単なる数値ではなく、搬送効率、安全性、システム全体の信頼性に直結する設計要素です。特に、複雑なルートや人との共存エリアを含む現場では、「どこで速く、どこで遅くするか」という細やかな速度制御が不可欠です。このセクションでは、AGVの速度設計において見落とされがちな要点を、図解やデータを交えて解説します。
導線設計と減速ポイント(交差点・曲がり角)
AGVが一定速度で常に走行しているという認識は誤りです。実際の現場では、交差点やカーブ、合流地点などで自動的に減速するように制御されています。これらのポイントを設計段階で考慮しなければ、衝突リスクや搬送遅延が生じる可能性があります。
減速ポイントを考慮した導線設計
導線設計では、AGVの速度を段階的に制御するため、ルート上の「どこで何m/minに設定するか」を意識する必要があります。
【直線区間】──────── 高速走行(例:40〜60m/min)
↓
【カーブ手前】─── 減速(例:15〜25m/min)
↓
【交差点・人との共用エリア】── 低速走行または一時停止(例:5〜10m/min)
直線区間ではAGV本来のスペックを活かした高速走行が可能ですが、カーブや交差点では安定性と安全性の観点から減速が必須です。意図的に減速を組み込むことで、搬送全体のスムーズさと安全性を両立できます。
人との混在環境では速度制限をどう設定するか
近年では「人とAGVが共存するエリア」での運用が増えています。このような現場では、単にセンサー任せにするのではなく、事前に人の動線を考慮した速度制限を設計に織り込む必要があります。
混在エリアでの運用においては、以下のようにエリアごとに速度を分けて制御するのが一般的です。AGVと人の混在環境での安全速度帯(参考値)を表にしています。
エリア分類 | 推奨速度(m/min) | 備考 |
---|---|---|
AGV専用エリア | 30〜50 | 人の出入りがないため高速搬送が可能 |
人との共用通路 | 5〜15 | 接触リスク軽減のため低速設定が必須 |
出入口・交差点 | 0〜10 | 一時停止または減速を徹底、安全確認が必要 |
AGV専用エリアでは生産性重視の高速搬送が可能ですが、人と共有する通路では、予測不能な人の動きを見越した低速走行が不可欠です。速度制限の設定は、単なるルールではなく、現場の安心感と継続的な運用を支える重要なインフラです。
「速さ=効率」とは限らない設計のコツ
AGVの速度を上げることで一時的なサイクル効率は向上するかもしれませんが、その結果としてブレーキミス、制御エラー、ルート誤差などが頻発するようでは、本末転倒です。むしろ「必要な搬送頻度に応じた最適速度」を逆算して設定することで、長期的な安定稼働と高い稼働率が得られます。
AGV導入時には、速度設定を単体で決めるのではなく、以下のような全体フローで設計することが推奨されます。
1. 搬送要件(重量・距離・頻度)を整理
↓
2. ルート・通路幅・曲率などを確認
↓
3. 想定速度範囲と制限条件を設定
↓
4. 安全距離・停止距離を考慮した制御設計
↓
5. 機種選定・シミュレーション・検証
この設計フローを実行することで、AGV導入における「速度・安全・生産性」の3要素の最適バランスが図れます。特にシミュレーションは、導入前のリスク検証に極めて有効です。
よくある質問(FAQ)|AGVの速度に関する疑問を解消
- AGVの一般的な走行速度はどのくらいですか?
多くのAGVは、10〜60m/min(約0.17〜1.0m/s)の範囲で走行します。用途や導入環境に応じて設定されるため、使用目的に合わせた機種選定が必要です。
- AGVの速度は機種によってどれくらい違うのですか?
最大速度は機種によって大きく異なり、屋内用で最大120m/minを超えるものもあれば、狭所・低床向けで40m/min前後に抑えられている機種もあります。
- AGVの速度は後から調整できますか?
はい、多くのAGVはソフトウェア設定や運行マップを通じて速度の調整が可能です。ただし、安全設計や搬送制御とのバランスを考慮する必要があります。
- AGVを人と混在するエリアで使う場合、速度制限は必要ですか?
必要です。一般的に人との共用通路では5〜15m/min程度に制限するのが安全とされており、出入口や交差点では一時停止やさらに低速設定が求められます。
- AGVの速度が遅いと作業効率にどのような影響がありますか?
搬送1回あたりの時間が長くなるため、サイクル効率は落ちます。ただし、遅くても安定稼働し、トラブルが少ない方が全体の稼働率が高まるケースもあります。
- AGVの速度を上げることで搬送回数はどれくらい増えますか?
仮に速度を倍にしても、停止時間や荷積み時間を含めた「搬送サイクル」全体に対するインパクトは30〜40%程度が上限とされます。速度以外の改善も必要です。
- AGVの速度に関する法令や安全基準はありますか?
明確な速度制限の法令はありませんが、労働安全衛生法やロボット導入ガイドラインに基づき、安全距離の確保や人との接触回避のための配慮が求められます。
- AGVのカーブや交差点での減速設定はどうなっていますか?
多くのAGVは、あらかじめ設定されたルート情報に従い、カーブや交差点では自動的に減速します。通常は通常速度の30〜50%程度に落とす制御が行われます。
- AMRと比べてAGVの速度性能はどうですか?
速度そのものは大きな差はありませんが、AMRは障害物を回避しながら動くため、結果的に「平均走行速度」はAGVより安定しにくい場合があります。
- 速度重視でAGVを選ぶ場合の注意点はありますか?
速度のスペックだけで選ぶと、現場レイアウトや安全設計との整合性が取れず、かえって非効率になります。速度以外に、加減速性能・停止精度・センサー性能も重視すべきです。
まとめ|AGVの最適速度は「現場設計」と「運用目的」によって決まる
AGV(無人搬送車)の速度設定は、単なるスペック選定の問題ではなく、導入効果そのものを左右する重要な戦略要素です。本記事では、AGVの速度に関する基礎知識から、具体的な機種比較、導線設計、安全配慮まで幅広く解説しました。ここで改めて、要点を整理し、実践に活かすための視点を提示します。
本記事の要点おさらい
AGVの速度は、運用環境・搬送ルート・人との共存など、さまざまな要因によって調整されるべきものです。以下の点が特に重要です。
- 一般的なAGVの速度帯は10〜60m/min前後だが、用途によって大きく異なる
- 積載重量、ルート構造、床面状態、安全センサーなどが速度に影響を与える
- 高速なAGVでも、交差点や人との共用エリアでは意図的に減速させる必要がある
- 速度が搬送効率に影響する一方、安全性や制御の安定性とのバランスも重要
- 実機スペックよりも、導入現場における“再現可能な運用速度”の設計が鍵となる
導入現場の設計や運用方法次第で、同じAGVでも性能の引き出し方は大きく異なります。速度設定を軽視すれば、期待していた効果は得られず、却って現場の混乱を招くリスクすらあるのです。
それに対して、搬送要件と運用設計に基づいた適切な速度設定がなされれば、搬送効率は最大1.5〜2倍に向上し、事故リスクも最小化できます。これは単なる改善ではなく、生産性や安全性を劇的に底上げする「設計戦略」そのものです。
速度を軸にした失敗しないAGV選定のすすめ
多くの現場で、「とりあえず導入してみる」ではうまくいきません。重要なのは、速度という“見えやすい数値”を出発点に、以下のような設計思考を持つことです。
- 現場レイアウトにおける最適速度帯を定量的に把握する
- 減速すべきエリアを事前に定義し、安全距離を設計に組み込む
- 人との共存エリアでの速度制限ルールを明確にする
- 搬送頻度と速度のバランスから必要機台数を逆算する
- 安全性・効率性を両立する制御設定を事前にシミュレーションする
こうした手順を踏むことで、単に「速いAGV」ではなく、「運用に最適なAGV」を選定・設計することが可能になります。
AGV導入は、機器選びではなく“現場設計そのもの”。速度はその入口であり、最大の成否分岐点です。速度設計を戦略的に行えば、投資対効果を最大限に引き出し、持続可能な自動化基盤を構築できます。
「何を基準に選べばいいのか分からない」方向けに、選定の基本を整理しました。
タイプ別・現場別の最適な選び方を、図解入りで分かりやすく解説しています。
後戻りのできない導入だからこそ、今この段階で目を通しておくべき内容です。
→ AGVタイプ別選定ガイドをPDFで確認する