AGV(無人搬送車)の導入が進む中、「市販品では現場に合わない」「もっと自由に作り込みたい」──そんな声に応える選択肢として、今“AGVキット”が注目を集めています。

工場や倉庫の自動化が進む一方で、既製品のAGVでは対応しきれない特殊な現場ニーズや、コスト削減の観点から「自社で構築したい」という企業が増えてきました。

本記事では、AGVキットとは何か、そのメリット・注意点、向いている企業の特徴までを徹底解説。
導入すべきか迷っている方にとって、技術面・コスト面・組織面の「判断材料」となる内容を提供します。

AGVキットとは何か?

AGVキットの基本構成

AGVキットとは、AGVの心臓部となる「走る・止まる・避ける・通信する」といった機能をモジュール単位で提供するものです。

  • 駆動モジュール(モーター、車輪)
  • センサー類(障害物検知、自己位置推定)
  • コントローラー(制御装置)
  • バッテリーと充電システム
  • 通信モジュール(Wi-Fi、Bluetooth、Ethernetなど)

これらをベースに、ユーザーが現場に応じた筐体やソフトウェアを設計・組み合わせて完成させていきます。

完成品AGVとの違い

比較項目完成品AGVAGVキット
カスタマイズ性低い(選択肢が限定的)高い(用途に応じて構成変更可)
導入スピード速い(すぐ使える)要設計・検証(時間がかかる)
技術ハードル低い高い(設計・制御知識が必要)
コスト高め条件次第で抑えられる

AGVキット導入の3つのメリット

1. 現場に最適化した自由設計が可能

AGVキット最大の魅力は「自由度の高さ」。

通路幅が狭い、傾斜がある、取り扱う荷物が特殊など、標準的なAGVでは対応できない現場に対して、構造や制御を柔軟にカスタマイズできます。

「うちの現場は特殊だから…」と導入を諦めていた企業にこそ、AGVキットはフィットします。

2. 初期投資を抑えられる可能性

制御系・センサー系・筐体構造など、必要な要素だけを取捨選択できるため、初期コストを最適化しやすくなります。

「アームは不要」「1ルート専用だから簡素な制御でOK」など、必要最低限の仕様で構築できるのがキット型の強みです。

3. 技術ノウハウの社内蓄積につながる

単に導入するのではなく、自ら作り上げていくことで、設計・調整・保守の知見が社内に蓄積されます。

「使えるだけでなく“育てられる”AGV」が欲しい方にとって、内製化可能なAGVキットは有力な武器になります。

導入にあたっての4つの注意点

1. 高度なエンジニアリングスキルが必要

AGVキット導入は、「パーツを買ってくれば完成」ではありません。

仕様設計から試作・検証・調整まで、一定レベル以上の技術力が必要です。
以下のようなスキルが必要になることを念頭に置くべきです:

必要スキル内容例
機械設計シャーシ設計、重量バランス調整
電気・制御設計PLC制御、モータードライバ接続、制御盤設計
ソフトウェア実装ROSや独自OSによる走行制御、UI構築
センサキャリブレーションLiDAR、カメラ等の調整、データ処理

2. 安全設計と規格適合への対応が不可欠

AGVは“動く装置”であり、万が一の衝突や誤作動が人命や設備に関わるリスクもあります。

国際規格(ISO 3691-4、TS15066など)や国内の労働安全衛生法に準拠した安全設計を怠ると、重大な事故や損害賠償の可能性も。

「動くこと」だけでなく「安全に止まること」も、AGVキット導入では非常に重要です。

3. 想定より導入スケジュールが延びるリスク

プロトタイプを動かすまでは順調でも、安定稼働までには思わぬ壁があります。

  • センサーの誤検知
  • 制御タイミングのズレ
  • 複数ユニット間の干渉

これらの調整・検証に時間がかかることも多いため、スケジュールには余裕を持っておく必要があります。

4. 保守・運用面まで視野に入れた設計が必要

導入時だけでなく、運用フェーズでの整備性や拡張性も重要です。

  • センサー交換のしやすさ
  • ソフト更新のフロー
  • 予備部品の手配性

「使い始めてから困らない設計」が、キット導入の成否を分けます。

どんな企業にAGVキットは向いているか?

適している企業適していない企業
社内に制御・ソフト技術者がいる技術者が外注依存
特殊環境・特注ニーズがある標準搬送で問題ない
導入コストをできるだけ抑えたい短納期・即導入を優先したい
メンテナンスやカスタマイズも内製したい導入後はベンダーにすべて任せたい

主なAGVキット提供企業と特徴

メーカー名製品名対応搬送能力特徴
明電舎e-FLOWキット~300kgフレーム+コントローラ+制御支援付き
日本電産シンポRoboKitシリーズ~200kg小型モデル中心、独自SDKを提供
カスタム系中小企業各種カスタムAGV応相談組込から筐体まで一括サポート可能

補助金・助成金活用の可能性

AGVキットは、「ものづくり補助金」など中小企業向けの補助金制度でも対象になりやすい分野です。

  • 装置購入費だけでなく、システム開発や設計・検証費も対象になる可能性あり
  • 自社開発・省人化・生産性向上がキーワード

年度ごとに募集時期が異なるため、導入を視野に入れているなら早めの情報収集が重要です。

まとめ|「自社に作る覚悟」があるなら有力な選択肢

AGVキットは、「低コストで自社仕様に最適化されたAGVを導入したい」「技術力と経験を蓄積したい」といった企業にとって非常に魅力的な選択肢です。

ただし、設計・調達・実装・安全設計のすべてにおいて一定の技術リソースが必要です。

導入の可否を判断するには、「目的」と「社内体制」の両方がそろっているかを見極めましょう。