自動化を進める製造現場や物流倉庫において、AGV(無人搬送車)の導入はもはや珍しいものではありません。しかし、導入にあたって意外と見落とされがちなのが「AGVの走行方式」です。走行方式の選定によって、導入効果や運用のしやすさが大きく変わるため、慎重な検討が必要です。

本記事では、AGVの走行方式について、駆動の仕組みと誘導の仕組みの両面から体系的に解説します。図解や比較表を用いて、現場環境に適した方式選びのヒントを提供します。

走行方式とは?駆動方式と誘導方式の違い

AGVの「走行方式」は一般的に次の2つの要素を含みます:

  • 駆動方式:AGVがどのように車輪を制御し、移動・旋回するか(動きの仕組み)
  • 誘導方式:AGVがどのように進行ルートを認識・追従するか(進むルートの決め方)

この2つを組み合わせて、AGVは正確かつ安全に目的地まで物を運ぶことができます。どちらか一方だけを見て判断すると、現場に合わない導入になってしまう可能性があるため、必ずセットで考えることが大切です。

駆動方式の種類と仕組み

差動駆動方式(2輪独立駆動)

最も広く使われる方式で、左右の駆動輪を個別に制御することで旋回や直進が可能です。多くの一般的なAGVに採用されており、構造がシンプルで導入しやすいという特長があります。

テキスト図解:

  ← 進行方向
     ↑
┌────────────┐
│   □ AGV本体 □   │
│              │
│  ◯       ◯   ← 駆動輪(左右回転差で旋回)
│              │
│  ■       ■   ← キャスター(前後安定)
└────────────┘

特徴:

  • 小回りがきき、狭い通路でも対応可能
  • 制御が比較的シンプルでメンテナンス性に優れる
  • 滑りやすい路面では正確な旋回が難しいことがある

オムニホイール方式(全方向移動)

ホイール自体が複数のローラーを備えており、縦横斜めの自在な動きが可能です。狭小スペースでの高精度な動作や、人との協調作業が求められる現場に適しています。

特徴:

  • 高精度な位置決めが可能
  • 高価かつ制御が複雑(ソフトウェアの調整が重要)
  • ピッキング作業や研究施設など、柔軟性が求められる現場に適している

台車牽引方式

AGVが台車をけん引するシンプルな構造です。多くの場合は直線走行を前提としており、比較的長距離の搬送に用いられます。

特徴:

  • 重量物の搬送に適する
  • 曲線走行や複雑なルートには不向き
  • 導入コストが安価で、既存の台車と組み合わせやすい

誘導方式の種類と仕組み

磁気テープ誘導

床に貼った磁気テープをAGV底部のセンサーで読み取り、走行ルートをトレースします。構造がシンプルで、工事も簡単なため、多くの工場で採用されています。

テキスト図解:

───────────────  ← 磁気テープ(床面)
         ↑
      [AGV本体] ← 下部センサーでテープを追従
         ↑
     磁気センサー

特徴:

  • 安価で導入しやすい
  • レイアウト変更に柔軟(貼り替えで対応可能)
  • テープの劣化や汚れによる走行精度の低下に注意

QRコード(2Dコード)誘導

床面に設置したQRコードを読み取り、自己位置を把握しながら走行します。磁気テープよりも詳細な位置情報が取得可能です。

特徴:

  • 高精度な位置情報が取得可能
  • コードの汚れや照明環境に影響されやすい
  • ピッキングラインや交差点の多いレイアウトに有効

SLAM(自己位置推定と地図生成)

LiDARやカメラを活用し、リアルタイムで地図を生成・更新しながら自律移動する高度な方式です。人や障害物を避けながら走行できるため、次世代型の自律搬送に最適です。

特徴:

  • レイアウト変更に強く、動的な環境に対応
  • 高価で初期導入に時間がかかる(キャリブレーションが必要)
  • 人と共存するフロアや変化の多い倉庫に最適

駆動方式 × 誘導方式の組み合わせ比較表

各駆動方式と誘導方式の組み合わせによる相性をまとめたのが、以下の比較表です。

駆動方式\誘導方式磁気テープQRコードSLAM
差動駆動
オムニホイール
台車牽引

それぞれの方式には得意・不得意があるため、現場の条件や運用目的に応じて、最適な組み合わせを選ぶことがポイントです。

適用現場別マッチング一覧

これらのマッチング表を参考に、自社の現場条件と照らし合わせて、最適な方式を見極めていくことが重要です。

方式狭小スペース段差対応レイアウト変更高精度位置制御コスト
差動駆動
オムニ
台車牽引×

導入前によくある失敗とその回避策

失敗例1:SLAM導入後に通信干渉や誤作動が多発

  • 原因:天井や壁の反射、Wi-Fi干渉、光量不足
  • 対策:床・壁の素材確認、通信帯域の調整、導入前テストを必ず実施

失敗例2:磁気テープが剥がれやすく頻繁に貼り直し

  • 原因:施工不良、清掃不十分、床のひび割れ
  • 対策:施工時の下地処理、定期点検と再施工マニュアルの整備

失敗例3:オムニホイールを導入したがメンテ費が高騰

  • 原因:消耗部品が多く、国内での部品供給が不安定
  • 対策:部品在庫の確認、代替品の取り扱い有無をチェック

まとめ:走行方式は「現場環境との相性」で決める

AGVの走行方式選定では「高機能=最適」ではありません。重要なのは、現場のレイアウトや搬送物、作業者との協調性といった条件を踏まえて、「ちょうどよい機能性」と「安定した運用」が両立できる方式を選ぶことです。

導入前には、実際の機種での現場テストや、メーカーへの相談を通じて、自社環境に最適な構成を見つけることをおすすめします。