物流や製造の現場で、いま最も注目されているキーワードのひとつが「AMR(自律走行搬送ロボット)」です。

人手不足や多様化する業務に対応するため、搬送業務の自動化は避けて通れないテーマとなっています。しかし、いざ「AMRを導入しよう」と考えたとき、こんな悩みを感じたことはありませんか?

  • 自社の現場には、どのタイプのAMRが合うのか分からない
  • ピッキング、仕分け、工程間搬送など、使える場面が多すぎて迷う
  • 導入事例や選定のポイントを、まとめて知りたい

この記事では、そんな疑問に応えるために、AMRが活躍する具体的な搬送用途を分類し、現場目線で分かりやすく解説します。

さらに、用途別の選定ポイントや、現場の課題から逆算する導入の考え方まで、実用的な視点で網羅。初めてAMRを検討する方にも、すでに比較検討フェーズにある方にも役立つ内容です。

AMR(自律走行搬送ロボット)とは何か

AMR(Autonomous Mobile Robot)は、カメラやセンサーを活用して自律的にマップを作成・認識しながら走行する搬送ロボットです。従来型のAGV(無人搬送車)のように磁気テープやガイドを必要とせず、より柔軟な運用が可能です。

特に以下のような場面で力を発揮します:

  • 頻繁にレイアウトが変わる倉庫や工場
  • 多品種少量生産が求められる現場
  • 人とロボットが協働する環境

人手不足や作業の自動化ニーズが高まる中、AMRは単なる「自動搬送機」ではなく、現場の柔軟性と生産性を高める戦略的ツールとして注目されています。

AMRが活躍する主要な搬送用途

ピッキング支援

ピッキング作業においては、作業者の移動時間や歩行距離の削減が大きな課題です。AMRは次のような形でこれをサポートします。

  • 作業者の後を追従することで、荷物を持って歩く必要がない
  • 棚そのものをAMRが移動させ、作業者が定位置でピックする”棚搬送型”方式
  • AMRとPut to Lightシステムを連携させて、仕分けの精度とスピードを向上

事例:あるEC倉庫では、異なる温度帯(常温・冷蔵)ごとにAMRを活用したゾーンピッキングを導入。作業者の動線を最小限にすることで、1時間あたりのピッキング件数が約20%向上しました。

仕分け搬送

仕分け工程においては、商品の行き先に応じたスムーズな搬送が求められます。AMRは以下のような役割を担います。

  • 荷物に付いたバーコードを読み取り、指定エリアまで自動搬送
  • 搬送先に複数の棚を設置し、AMRが棚差し込みで納品物を仕分け
  • スキャナ・WMSと連動し、リアルタイムで行き先変更にも対応

事例:宅配事業を行う中継センターでは、AMR導入により仕分けエリアごとの誤配送が3割削減。また、従来3名で行っていた夜間作業を1名で対応可能になりました。

工程間搬送

製造ラインでは、各工程間をつなぐ搬送業務が人手に頼っているケースが多く存在します。AMRを活用することで:

  • パーツ供給や完成品の移動が自動化され、作業の属人性を解消
  • EV(エレベーター)や自動扉と連動して複数階の搬送が可能
  • センサー付きで人の往来が多い現場でも安全に走行

事例:自動車部品工場にて、鋳造~加工ライン間の搬送をAMRに置き換え。手押し台車の運用が不要になり、ライン停止時間が15%短縮されました。

業種別AMR活用パターン

製造業

  • 加工・組立ライン間での部品供給や完成品の搬送
  • クリーンルーム対応AMRによる高精度製品の移動
  • 生産管理システム(MES)との連携によるタイミング搬送

物流倉庫

  • マルチロケーション倉庫での効率的な棚搬送
  • 出荷前仕分け工程における動的ルート変更
  • ドライバー不足に対応した、AMRとトラックの自動連携

医療・施設系

  • 食事や医療用品の定時搬送(時間・ルート設定が可能)
  • エレベーターを活用した階層移動
  • ナースステーションとの連携による物品の即時搬送

AMR用途別 選定マトリクス

用途カテゴリ主な搬送物搬送物重量の目安ナビゲーション方式必要な周辺連携推奨積載方式備考
ピッキング支援トート、バスケット5~30kgSLAM / QR / マーカー併用WMS連携 / 人追従棚搬送 / カゴ載せ追従型やPut to Lightとの連携も可
仕分け搬送荷物小口(宅配物など)~10kgSLAM / ライン走行スキャナ連携 / バーコード読取トレイ搬送 / 棚差し込み搬送+仕分け機能の組合せに注意
工程間搬送パーツ箱・通箱・パレット20~200kgSLAM / マップベースMES・PLC連携 / 自動扉リフトアップ / パレット搭載工場レイアウトに応じて回避性能が重要
屋外搬送パレット・カート100~500kgGNSS / RTK+SLAM遠隔監視 / エリアセンサ連携カート牽引 / ローラー搬送雨・段差・傾斜への対応が必要
病院・施設内搬送リネン・食事トレー~30kgSLAM / RFID呼び出し端末 / EV連携専用ラック搭載時間帯によるルート制御なども考慮

導入前に整理すべき選定ポイント

AMRは導入して終わりではなく、「現場に合う設計」ができるかが成否を分けます。
まずは下記のフローチャートを参考に、必要な条件を順に整理してみてください。

▼ AMR導入を検討中ですか?

 └→ はい
   ↓
▼ 搬送したい対象物は決まっていますか?
(例:パーツ、トート、パレット、食事トレーなど)

 ├→ はい
 │ ↓
 │ ▼ 重量はおおよそどれくらいですか?
 │ (~10kg/10~50kg/50kg以上)
 │
 │ ↓
 │ ▼ 搬送するエリアの環境は?
 │ ・屋内のみ
 │ ・屋外を含む
 │ ・段差/坂がある
 │ ・クリーンルーム
 │
 │ ↓
 │ ▼ ルートは固定?可変?柔軟に変わる?
 │
 │ ↓
 │ ▼ 既存システムとの連携は必要ですか?
 │ (WMS/MES/エレベーターなど)
 │
 │ ↓
 │ ▼ 搬送の頻度・時間帯は?
 │ (定時/不定期/人の有無)
 │
 │ ↓
 │ ▶ 上記の条件に合ったAMRタイプを選定
 │  → 「用途別マトリクス」を参照
 │
 └→ いいえ
   ↓
  ▶ まずは「何を、どこへ、どのくらい運びたいか」を整理
   → 現場ヒアリング・業務棚卸を推奨

次に、各条件を踏まえて、具体的に何を整理すべきかを見ていきましょう。

1. 搬送条件の明確化

導入を検討する前に、まずは「何を」「どこからどこへ」「どのくらいの頻度で」運ぶのかを明確にする必要があります。

  • 搬送対象物のサイズ、重量、形状、取り扱い注意点
  • ルートの距離、障害物の有無、通路幅、段差の有無
  • 作業時間帯、ピッキング頻度、複数拠点連携の有無

2. 現場環境との整合性

AMRがきちんと運用できるかどうかは、現場の環境に大きく左右されます。

  • 屋内か屋外か(屋外は防水・防塵・傾斜対策が必要)
  • 電波やセンサー干渉のリスク(病院や大型工場)
  • 周辺機器や基幹システム(WMS、MES、BASなど)との連携難易度

3. 将来拡張性

今すぐの課題解決だけでなく、今後の業務変化にも対応できるかを見ておく必要があります。

  • 数台から複数台の導入にスケール可能か
  • 他の設備やロボットとの協調がしやすい設計か

AMR導入で失敗しないための選定ポイントを整理したい方は、AMR選定のポイントは?導入現場で失敗しないためのチェックリスト付き解説も参考にしてみてください。

選定に悩む現場が抱える課題とは

「何から検討してよいか分からない」

AMRの種類が増える一方で、「自社に必要なスペックは何か?」が見えづらくなっています。

「候補が多すぎて比較できない」

単にカタログを並べても、運用のイメージが湧かず、結局どの製品が良いのか判断できない状態になりがちです。

「選定後に現場で使えるか不安」

図面上は導入可能でも、実際の現場では想定外の障害物やレイアウト変更が障壁になることがあります。

まとめ|AMR搬送の導入は“現場の課題”から逆算する

AMRの導入は、単なる機器選定ではなく「現場の本質的な課題をどう解決するか」の視点が重要です。

まずは業務フローの中で、繰り返し発生する作業や非効率な工程を特定しましょう。その上で、どの搬送方式が現場に最も合うかを選定することで、設備投資のROIも明確になります。

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