AGV(無人搬送車)を導入すれば、人手不足が解消され、生産性が上がり、現場がスマート化される——そんな理想像に惹かれて、導入を決める企業は年々増加しています。
しかし、実際に稼働させてみると「なぜか止まる」「通れない」「充電が間に合わない」など、思わぬ障害に直面するケースも多く見られます。原因は、AGV本体の性能ではなく、現場側の“準備不足”にあることがほとんどです。
本記事では、AGVを導入するうえで見落とされがちな現場インフラの整備について、導入前・工事段階・稼働後という3つのフェーズに分けて、初めての方にもわかりやすく解説していきます。
「導入してから困る」のではなく、「導入前に防ぐ」ために、今こそ現場を見直すチャンスです。
現場インフラ整備の全体像:導入前から稼働後まで
AGV導入は単なる機器の導入ではありません。現場インフラとの“相性”が悪ければ、せっかくのAGVも性能を発揮できません。ここでは、導入の段階ごとに何を整備するべきかを体系的に整理します。
導入前:AGV選定と並行して行うべき準備
動線と通路幅の確保
- AGVの車体サイズに加えて、交差や待避を想定した通路幅の見直しが必要です。
- 通路の曲がり角や人の往来がある場所では、さらに広めのスペースを確保することで、渋滞や衝突リスクを軽減できます。
フロア状態の確認
- AGVは繊細なセンサーやタイヤを使って走行するため、床の状態が極めて重要です。
- 小さな段差や傾斜でもセンサー誤作動や走行不良の原因になるため、3mm以上の不陸は補修が必要とされます。
通信インフラの整備
- AGVはクラウド型WMSやFMSと連携して動作することが多く、リアルタイム通信が不可欠です。
- 一般的なオフィス用Wi-Fiでは通信品質が不安定な場合があるため、専用の業務用アクセスポイントを導入するのが望ましいです。
電源容量の把握
- 充電ステーションや中継装置、AGV本体の充電には相応の電源が必要です。
- 特に複数台のAGVを同時に運用する場合は、電源容量不足がボトルネックになるケースがあります。事前に電源工事の有無も確認しておきましょう。
工事・設置段階:現場に手を入れるフェーズ
この段階では、実際に改修工事や設置が行われるフェーズです。下記チェックリストを参考に、抜け漏れがないか確認しましょう。
改修項目チェックリスト
カテゴリ | チェック内容 | 備考 |
---|---|---|
床材・段差 | 不陸・段差の補修 | 3mm以上の段差は要注意。脱輪・故障の原因に |
通路幅 | AGVの幅+最低600mmの余裕 | 通行のすれ違い、作業員との共存も考慮 |
電源 | コンセントの位置・容量 | 充電ステーション用に専用回路を設けることも多い |
通信環境 | Wi-Fiの死角チェック | 通信遅延は停止や誤作動のリスクに直結 |
安全設備 | アラート灯・センサー・標識設置 | 作業者の安全確保とルールの明示化に貢献 |
稼働フェーズ:充電ステーションの設計と運用
AGVが安定稼働するためには、充電インフラの設計が非常に重要です。稼働率を落とさず、メンテナンス性と安全性も両立させる設計が求められます。
充電方式の種類と選び方
方式 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
手動充電 | 人がケーブルを接続 | 初期費用が安価 | 運用の手間・ミスが多い |
接触式自動充電 | AGVが自走で接続 | 自動化しやすい | 接点の汚れ・劣化に注意 |
非接触式充電 | ワイヤレスで充電 | 消耗部品が少ない | 高価・充電効率が劣る |
充電ステーション設置の考慮点
- 位置選定:AGVの走行ルートから自然にアクセスできる場所に設置することで、無駄な移動を防ぎます。
- 台数と電源容量:運用時間帯に必要な充電回数・同時台数を想定し、電源工事とあわせて設計します。
- 安全設計:作業員の通行路と重ならないようにしつつ、充電時の通電警告や保護カバーなども検討しましょう。
よくある失敗と対策
現場での失敗事例を知ることで、自社の導入でも同じ失敗を避けることができます。
通信が届かずAGVが停止する
- 原因:Wi-Fiアクセスポイントの位置不適切
- 対策:現地で死角を測定し、中継器や専用LANを導入
複数台充電できず稼働率が落ちる
- 原因:電源容量不足、同時充電を想定していなかった
- 対策:AGVの充電スケジュールを整理し、必要な電源計画を立案
床の凹凸で走行不良・故障が発生
- 原因:床面点検を省略したまま導入
- 対策:専門業者による床診断を実施、必要な補修を先に行う
導入ステップに沿ったインフラ整備フロー
ステップ | フェーズ | 内容 | 目的・ポイント | 担当部門・関係者例 |
---|---|---|---|---|
1 | 導入検討 | AGV導入目的の明確化、走行ルートの仮設定 | 動線設計や対象範囲を絞り込む | 生産技術、企画部門 |
2 | 現地調査 | 床状態・通路幅・電源容量・通信状況の確認 | インフラの課題を“見える化”する | 保全部門、協力業者 |
3 | 設計・プランニング | 改修プランの設計(図面化・見積もり作成) | 実行可能な範囲で最適化する | 設備設計、建築担当 |
4 | インフラ工事 | 床補修、電源工事、通信ネットワーク整備 | AGVが安定稼働できる環境を構築 | 工事業者、IT部門 |
5 | 機器設置 | AGV本体・充電ステーションの設置・位置調整 | 安全で効率的な稼働配置にする | AGVベンダー、現場担当 |
6 | 検証・本稼働 | テスト走行・調整→本格稼働開始 | 運用トラブルを最小化し、スムーズに立ち上げる | 全体プロジェクト責任者 |
導入プロジェクトでは、これらのステップを並行して進めることが多いため、スケジュールや業者手配も重要な管理項目です。
現場インフラの整備を進める前に、どんな項目をチェックしておくべきか?
導入前のヒアリングで押さえるべきポイントを、以下の記事にまとめています。
→ AGV導入前の現場ヒアリング項目|失敗しない要件整理のコツ
まとめ:現場の準備こそが、導入成功の分かれ目
AGV導入は機器の購入だけで完結しません。床の補修から始まり、通路の確保、通信・電源の最適化、そして充電ステーションの配置といった現場インフラの最適化こそが成功のカギです。見落としがちな細部にこそ、費用と運用リスクの分かれ目があるため、導入前の段階からインフラ要件を丁寧に洗い出しておきましょう。
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