在庫はあるはずなのに、見つからない。ベテランしか配置場所が分からない。ピッキングのたびに倉庫を走り回る――。そんな「ロケーション迷子」の現場を変える鍵が、WMSのロケーション管理機能です。

本記事では、WMSのロケーション管理がどのように倉庫の課題を解決し、作業効率や在庫精度を飛躍的に高めるのかを、具体例とともに解説します。今まさに、「うちの倉庫、このままで大丈夫か?」と感じている担当者の方にこそ読んでいただきたい内容です。

WMS未導入・ロケーション管理が機能しない倉庫のリアル

属人的な配置と動線のムダがもたらす混乱

ある地方倉庫の朝。新人作業員が出荷リストを手に、棚の前で立ち尽くしていました。「この品番、どこにありますか?」と尋ねられたベテラン作業員が「確かあの奥の棚だったと思う」と答える。しかしいざ向かってみると、そこには別の商品。こんなやりとりが、一日に何度も繰り返されています。

ロケーション管理が機能していない倉庫では、在庫配置が属人的で、作業員の経験に依存しがちです。
結果として、新人や応援スタッフが業務を円滑に進められず、教育コストもかさみます。また、ピッキング作業に時間がかかり、出荷の遅延にもつながります。

「探す」「戻る」「聞く」が常態化している現場

ロケーションが曖昧なまま業務を進めると、「商品を探す」「間違えて戻る」「誰かに聞く」といった無駄な動作が発生します。これが繰り返されることで、出荷ミスや誤出荷のリスクも高まります。特に繁忙期にはその影響が顕著で、出荷遅延やクレームの温床となりかねません。

ロケーション管理が機能していない倉庫で起こる課題一覧

属人的な運用や整理されていないロケーション管理がもたらす問題を整理しました。

課題内容よくある現象業務への影響
在庫位置が曖昧商品が見つからず、探し回るピッキング時間の増加、誤出荷リスク増
担当者の勘に依存ベテランでないと配置場所が分からない属人化、教育コスト増大
レイアウトが最適でない重い商品が奥、動線が交差して非効率作業負担増、事故リスク
空棚の把握ができない一部の棚に過密保管、他は空棚スペースのムダ、入庫遅延

これらの課題はWMSによるロケーション最適化で解消できる可能性が高く、早期の可視化と対策が求められます。

WMSのロケーション管理とは何か

ロケーション=「在庫の住所」をデジタル化する考え方

WMS(倉庫管理システム)におけるロケーション管理とは、在庫の「住所」をデジタル上に明示する仕組みです。倉庫内をゾーン、棚、段、間口などの階層構造で分け、それぞれに一意のロケーションコードを付与します。これにより、どの棚にどの商品がどれだけ保管されているのかをリアルタイムで把握できるようになります。

これまで作業員の頭の中にしかなかった在庫位置の情報が、WMSによって誰でも確認・操作できるようになり、属人化が解消されます。

固定ロケーション vs フリーロケーションの違いと選び方

倉庫運用におけるロケーション管理には、大きく分けて2つの方式があります。下記の表にその違いをまとめました。

固定ロケーションとフリーロケーションの比較

管理方式特徴適したケース主な課題
固定ロケーション商品ごとに決まった棚番に在庫を格納商品種類が少なく、入出庫が安定している倉庫空棚が生じやすく、スペース効率が低下する
フリーロケーション入荷時の空き棚に柔軟に格納SKU数が多く、頻繁な入出庫がある倉庫ロケーション管理システムの正確性が求められる

フリーロケーションは管理精度が求められる分、倉庫スペースの有効活用や動線最適化といった面で優位性を持ちます。

WMSで劇的改善!ロケーション管理機能が変える現場の姿

動線が1/2に短縮、探す時間ゼロへ

WMSと連動したロケーション管理を導入することで、作業員はハンディ端末を片手に、指定されたルートに沿ってピッキングを進めることが可能になります。これにより、倉庫内を行ったり来たりするムダな動きが減り、動線は従来の1/2にまで短縮される事例もあります。

また、商品の配置が可視化されることで「探す時間」がゼロになり、新人でも即戦力として活躍できるようになります。

在庫差異・誤出荷が激減した事例

在庫の位置情報が明確になることで、誤出荷やピッキングミスといったヒューマンエラーが大幅に減少します。ある事例では、フリーロケーションを導入することで月間の誤出荷件数が1/4にまで減少し、棚卸作業も1/3の時間で完了するようになりました。

WMS導入時に知っておきたいロケーション設計のポイント

「物量」ではなく「作業頻度」でゾーンを分ける

商品をどこに置くかを決める際、多くの現場ではサイズや重量を基準に考えがちです。しかし、効率的なロケーション設計には「作業頻度」すなわちピッキング回数が重要です。以下は、出荷頻度に応じたABC分析の活用例です。

ABC分析に基づくゾーン設計の考え方

ゾーン代表商品例出荷頻度配置位置説明
A定番商品・主力品倉庫入口付近出荷回数が多いため、動線が短くなるよう配置
B季節商品・準主力品倉庫中央部繁忙期に対応しやすいバランス配置
C長期在庫・低回転品奥側・上段動線は長くなるが、影響が少ない

頻出する商品を手前に、動かない商品を奥に配置することで、現場の動線が最適化され、作業負荷が軽減されます。

ラベル・棚番・レイアウトの整備が成否を分ける

WMSでロケーションを管理しても、現場側に対応するラベル表示や棚番の明示がなければ意味がありません。棚の表記や案内標識、ゾーン別の色分けなど、現場整備とシステムの連動が重要です。

WMS成功事例:繁忙期の出荷遅れを撲滅したロケーション最適化

<事例概要>繁忙期対応に悩むアパレル倉庫のWMS導入事例

今回ご紹介するのは、地方にある中堅アパレル企業の物流センターです。この倉庫では、平常月でも月間6,000件以上の出荷を扱っており、繁忙期にはその数が1.5倍に膨れ上がります。限られた人数とスペースのなかで、作業負荷と出荷遅延の問題が深刻化していました。

<課題>属人化と出荷遅延に悩まされた現場運用の限界

とくに問題視されていたのが、ピッキング作業の属人化と、それに起因する誤出荷と遅延でした。商品配置は「経験で覚える」スタイルで、ベテランでなければ作業スピードが出ない構造になっていました。新人は覚えるまでに時間がかかり、作業に参加できる人数が限られることで繁忙期の出荷が間に合わなくなる、という悪循環が生まれていました。

また、配置場所が曖昧なことから、棚を探す時間が長く、ミスによる返品やクレームも増加していたのです。

<対策>WMSとロケーション再設計による業務の標準化と動線最適化

この状況を打開すべく、WMSの導入と同時にフリーロケーション方式を採用。作業頻度に基づいて商品をABCゾーンに再配置し、動線を最適化しました。また、各棚にはロケーションコード付きのラベルを貼付し、ハンディ端末との連携により、誰でも棚位置を特定できる環境を整備しました。

作業導線の一方通行化やゾーン別の作業担当割りも導入し、倉庫内の混雑と作業重複も解消。新人向けのロケーション操作マニュアルも整備し、教育負担も大幅に軽減されました。

<成果>ピッキング効率と精度が大幅向上、属人化も解消

導入から3か月後、作業現場には明確な変化が現れました。

成功事例:ロケーション管理導入によるビフォー・アフター

項目導入前(Before)導入後(After)
ピッキング時間平均12分/オーダー平均8分/オーダー(▲33%)
誤出荷件数(月間)約40件約10件(▲75%)
作業員のストレス「毎回探すのが面倒」「何度も戻る」「ルートが決まっていて迷わない」
教育コスト配置把握に1週間以上かかるWMS操作と棚番号説明で半日で対応可能

数字上の効果だけでなく、「新人でも初日から流れに乗れるようになった」「倉庫内を無駄に歩き回らなくなった」という声が現場から多数寄せられました。属人化が解消されただけでなく、作業効率と正確性が飛躍的に向上したのです。

WMS導入でよくある失敗とその回避法

「WMSを入れたのにロケーションがぐちゃぐちゃ」の原因

多くの現場で見られる導入失敗のパターンは、「WMSを導入したのに、思ったように改善されない」というものです。原因の多くは、現場側の準備不足にあります。

たとえば、ロケーションコードの命名ルールが曖昧で、誰が見ても分かる構造になっていない。あるいは、動線設計を無視して配置を変えてしまい、逆に作業効率が落ちてしまうといった例です。

現場とシステムの“すり合わせ”がすべてを決める

導入支援を受けずにシステムだけを入れてしまった場合、現場とWMSの間にズレが生じ、定着しないまま失敗に終わることもあります。ロケーション管理を成功させるためには、現場とITの中間に立てる橋渡し役の存在が不可欠です。

WMS導入時によくあるロケーション設計の失敗と回避策

失敗パターン主な原因対策
ロケーションコードがバラバラ命名ルールを決めず、現場任せ棚番号・ゾーンコードの体系化
動線が逆に悪化した現場の動きとロケーション設計が合っていない導入前に実作業をシミュレーション
システムだけ入れて現場整備しない棚ラベルや案内表示が不十分ハード面の整備をWMS導入と同時に行う
担当者の教育が追いついていない操作マニュアルや研修が不十分ハンディ端末と連携した動画説明など活用

これらの対策を講じることで、WMS導入後のギャップを最小化し、システムが本来持つ力を最大限に引き出すことができます。

まとめ:ロケーション管理こそ、WMS導入の価値を最大化する鍵

ロケーション管理は、倉庫業務において「効率」と「正確性」の両立を図るための中核です。現場では日々、「探す」「戻る」「迷う」といった非効率な動作が積み重なり、出荷遅延やクレームの原因になっています。

しかしWMSによってロケーションをデジタル化すれば、それらの問題を根本から改善できます。

本記事で紹介したように、ピッキング時間の短縮や誤出荷の削減といった定量的成果に加え、「新人でもすぐに活躍できる」「作業が楽になった」という現場の声が、システム導入の真の成果です。

ロケーション管理を最適化することで、倉庫は単なる保管場所から、企業の物流戦略を支える“競争力の源泉”へと生まれ変わるのです。