「WMSって、どんなことができるのか知りたいけれど、実際の現場で本当に役立つのかが分からない」
そんな声を、これまで何度も耳にしてきました。

カタログや製品サイトに書かれている機能一覧は立派だけれど、それが自社の入荷作業や棚卸、ピッキングといった日々の業務にどう関係するのか、イメージできない。これは、多くの現場担当者や導入検討者が抱える共通の疑問です。

この記事では、WMS(倉庫管理システム)の機能を「業務別」に整理しながら、それぞれの作業でどのような課題に“効く”のか、実際の現場でのリアルな課題と変化を織り交ぜて解説していきます

単なる機能説明では終わらせず、「導入後に何が変わるのか」「現場にどんな効果があるのか」まで掘り下げることで、これからWMSを検討される皆様の判断材料として活用いただける内容を目指します。

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なぜ「WMSの機能」を業務別に見るべきなのか

表面的な機能比較では導入後の後悔に繋がる理由

「WMS 機能」と検索すると、驚くほど多くの製品比較表や導入メリットの解説が出てきます。しかし、実際にWMSを導入した企業の中には「思っていたほど使えなかった」「機能はあったけど現場では活かせなかった」という声も少なくありません。

このギャップの原因は、「機能の有無」だけで比較してしまい、「業務フローの中でどう使えるのか」「自社の運用にフィットするか」という視点が抜け落ちているからです。例えば、「ロケーション管理機能」があると聞いても、それが棚入れの効率化にどう繋がるのか、想像しにくいことがほとんどです。

「業務に効くか」を判断するにはプロセス起点で捉えるべき

だからこそ、WMSの機能を「業務別」に整理して考えることが重要です。入荷、保管、ピッキング、出荷、棚卸といった一連の業務に対して、どの機能がどのように“効く”のかを見極めることで、自社に本当に必要な機能が見えてきます。

業務別に見るWMS機能の“効くポイント”

まずは、各業務ごとにWMSがどのように役立つのかを俯瞰する表を確認しておきましょう。

業務プロセス別に見るWMSの主要機能と解決課題

WMSが各業務でどのように機能し、現場課題にどう貢献するかを、業務フロー別に整理した一覧表です。

業務プロセス主なWMS機能解決できる主な課題例
入荷入荷予定データ連携、バーコード検品機能検品ミス、誤納品、ロット未登録の抑止
保管ロケーション管理、自動棚割、在庫引当空棚不足、誤配置、ピッキング効率の低下
ピッキングピッキング指示(順立て)、デジタル照合誤出荷、歩行距離の増大、作業者教育の負担
出荷出荷検品、納品書/送り状の自動出力書類ミス、納期遅れ、積載順ミス
棚卸・在庫調整ハンディ棚卸、リアルタイム在庫反映機能棚卸時間の長期化、紙照合作業、在庫差異

補足解説:業務単位でWMSの機能がどのように適用されるかを把握することで、導入前の機能要件整理や、現場での活用イメージが格段にしやすくなります。

入荷業務 ― 受入検品とロット管理の精度向上

朝一番のトラックが到着し、慌ただしく荷下ろしが始まる中、「どの製品がどこから来たか」「検品は終わっているのか」が分からず現場が混乱する光景は、WMS未導入の倉庫では日常的に見られます。特に、納品伝票と実物の突き合わせに時間がかかり、検品ミスやロット番号の記載漏れが頻発していました。

WMSでは、入荷予定データを事前に取り込み、ハンディターミナルでバーコードを読み取るだけで、検品とロット情報の登録が同時に完了します。これにより、検品ミスが約70%削減され、検品時間も1件あたり5分短縮されたという事例もあります。

保管管理 ― ロケーション最適化と在庫差異の削減

「この箱、どこに置けばいい?」「あの製品、あの辺の棚にあったと思うけど…」
こうした曖昧なロケーション管理が招くのは、スペースのムダ使いと在庫差異の慢性化です。実際、「棚が埋まっている」と報告されたにもかかわらず、奥には空いている場所があったというケースも珍しくありません。

WMSでは、保管ルールに基づいてロケーションが自動割り当てされ、棚間の空き具合もリアルタイムに可視化されます。在庫差異は、導入前と比べて月平均で15%減少したケースがあり、作業者のストレスも軽減されました。

ピッキング ― 指示・導線・誤出荷リスクの削減

「今日の出荷、急ぎらしいけど何から取ればいいんだ?」
こうした迷いは、出荷ミスや作業の遅延につながります。とくに新人や派遣スタッフにとっては、品番やロケーションを覚えるだけでも負担です。

WMSのピッキング機能では、出荷順に基づいた最短ルートのピッキング指示が出され、ハンディで読み取るだけで品番・数量・棚位置が確認できます。ある現場では、1日平均の歩行距離が2.4kmから1.1kmに短縮され、誤出荷率も99.3%から99.9%へと改善されました。

出荷業務 ― 積込順管理や納品書の自動出力などの自動化機能

出荷業務では、送り状や納品書の手書き、トラックへの積載順の調整など、細かい作業が重なります。これが手作業だと、ミスや遅延の温床になりがちです。

WMS導入により、出荷予定データをもとに納品書・送り状が自動で出力され、積載順も画面で確認可能になります。朝の出荷準備時間は従来の60分から30分に短縮され、ドライバーの待機時間もゼロになったという声もあります。

棚卸・在庫調整 ― 棚卸作業のリアルタイム化と作業負荷の平準化

従来の棚卸作業では、紙の在庫リストと照合しながら進めるため、「棚にない」「記載と違う」といった確認作業に手間がかかり、繁忙期には深夜まで作業が及ぶこともありました。

WMSでは、ハンディターミナルで棚番号と在庫を即座に読み取り、リアルタイムでシステムに反映できます。実際に、棚卸作業の所要時間が従来の40%以下に短縮された現場もあります。

見落としがちなWMSの“周辺機能”とその価値

見落とされがちなWMS“周辺機能”と現場価値

WMSに搭載される「メインではないが役立つ機能」を、その実務効果とともにまとめました。

周辺機能主な用途実務における効果・利点
トレーサビリティロット・期限・製造履歴の記録異常時対応が迅速化、リコール対応の精度向上
作業者別稼働ログ処理件数・作業時間の記録作業者教育の効率化、属人化の抑止、評価基準化
アラート通知機能欠品・異常・期限切れのリアルタイム通知異常検知の早期化、出荷ミスの事前防止

補足解説:多くの現場で「導入後にありがたさを実感する」これらの周辺機能は、作業精度・スピード・属人化対応という観点で非常に重要です。

現場から聞いた「助かったWMS機能」実例

出荷遅延を防いだアラート機能とデジタルピッキング

朝の出荷準備。現場は慌ただしく、複数の作業者がピッキング作業に取り掛かります。しかし、ある繁忙日の朝、ひとりの作業者の遅れが引き金となり、全体の出荷スケジュールが狂ってしまいました。

リーダーは「誰がどこまで終わっているのか分からない」まま判断を迫られ、最終的にはトラックの出発が20分遅延。その場はなんとかやり過ごせたものの、「こういうことが週に何度もある」と、現場の士気は下がっていきました。

この状況を変えたのが、WMSの「作業進捗ダッシュボード」と「作業遅延アラート」機能でした。ピッキング進捗がリアルタイムで可視化され、作業が遅れているエリアには即座に支援要請を出せるように。

今では、出荷準備中に遅延が発生しても、リーダーが即対応。トラックが予定通り出発するようになり、現場では「朝の空気がまるで違う」との声も上がっています。

出荷遅延を防止したWMS活用の補足一覧

出荷遅延がなぜ発生していたのか、どの機能が解決したのかを簡潔に整理した補足表です。

項目内容
状況朝一のピッキングの遅れが他作業に連鎖し、出荷遅延が常態化
課題作業進捗が見えず、指示やフォローが後手に回っていた
導入機能作業進捗ダッシュボード、作業遅延アラート通知
改善後の効果リーダーが即座に遅れ作業者に支援指示→出荷遅延ゼロに改善

補足解説:このように「見える化」と「通知」の機能が連動することで、管理者が主体的に現場をコントロールできるようになり、結果として出荷遅延という重大なリスクを根本から断ち切ることが可能になりました。

作業教育の手間を省いた「作業手順表示」連携

「誰に聞けばいい?」「この商品って何番棚?」
新人スタッフが戸惑うたびに、ベテラン作業者が呼び出される。そんな非効率な時間の浪費は、作業負荷の偏りを生み出していました。

WMSでは、作業ステップごとに「次にやること」がハンディ端末に表示される機能があります。これにより、誰が作業しても指示が統一され、教育時間は従来の半分以下に短縮。属人化の解消と平準化が同時に実現されました。

棚卸ミス激減の理由は“途中でも反映できる”設計

月次棚卸の際、「記録ミスがないか」「反映漏れがないか」を巡る不安は尽きません。紙に書き溜めた内容をあとでシステムに入力する手間は、二重の負担でもありました。

WMSのリアルタイム棚卸機能では、ハンディで読み取った時点で在庫が即座に反映されます。途中保存も可能なため、急な呼び出しや作業の中断にも対応でき、「棚卸ミスがゼロになった」という声もあるほどです。

WMS機能の「カタログ」と「実働」のギャップに注意

画面設計・操作性・カスタマイズ範囲で実際の使い勝手は変わる

カタログやデモでは「簡単操作」「誰でも使える」と書かれていても、実際に触ってみると操作が複雑で、画面遷移が多すぎるというケースもあります。

とくに、現場の高齢作業者や短期アルバイトが多い現場では、WMSが「難しすぎて触れない」状態になることもあります。重要なのは、実際の作業者に触ってもらい、直感的に操作できるかを検証することです。

デモでは見えない「日常運用」の落とし穴

導入前の短時間のデモでは見えないのが、「日常運用」における機能のクセです。実際、現場でありがちなギャップを以下にまとめました。

WMSのカタログ機能と実働でのギャップ事例

導入時にありがちな“想像と現実のズレ”を具体的に列挙し、注意喚起と検討精度向上につなげます。

機能項目カタログ表記例実際の現場での注意点
ピッキング指示「誤出荷ゼロを実現する完全指示機能」操作手順が複雑で新人には難しく、教育が必要
棚卸対応「誰でも簡単、即時反映」Wi-Fi不安定で棚卸中断、紙との併用が発生
ロット管理「期限・製造日も一元管理」入荷時登録を怠るとトレース不可に

補足解説:デモやパンフレットだけでは見えにくい実務面の落とし穴に備え、現場視点での導入判断が重要です。

自社に本当に必要なWMS機能を見極めるステップ

自社の業務プロセスを分解し、課題を特定する

WMSを導入する前に必要なのは、「自社の業務を一度、まっさらに分解して見ること」です。入荷から出荷までの各ステップに、どんな作業があり、どこに負荷やムダがあるかを明らかにすることが第一歩です。

機能一覧ではなく「課題→解決」でマッピングする

「この機能があるから導入する」のではなく、「この課題を解決するには、どの機能が必要か」という順序で考えることが重要です。

自社に必要なWMS機能を見極める3ステップ図解

WMS導入時に「どの機能が本当に必要か」を見極めるための実践ステップを、プロセスに沿って示しました。

ステップやること・確認項目
ステップ①:現状整理現在の入荷~出荷までの業務フローを棚卸する
ステップ②:課題抽出業務ごとの課題を具体的に洗い出す(例:出荷遅延、誤ピッキング)
ステップ③:機能対応課題に直結するWMS機能をマッピングする

補足解説:このプロセスを踏むことで、「便利そうだから」ではなく、「課題を解決するから必要」という明確な機能選定が可能になります。

実務者の声を必ず拾う、現場主体での要件整理

最後に重要なのが、「実際に使う現場の声を聞くこと」です。機能要件をIT部門や管理部門だけで決めてしまうと、現場で使われないシステムになりかねません。作業者の不満や希望を吸い上げることで、導入後の定着率は格段に高まります。

まとめ:WMSの機能は「使い方の文脈」で選ぶべき

WMSには多くの機能がありますが、「何ができるか」を並べても、それが自社の現場で活きるとは限りません。重要なのは、「どんな作業がどう変わるか」という“使い方の文脈”です。

導入後に「これはうちには要らなかった」と後悔しないためにも、業務フローごとの課題を明確にし、それに合った機能を選定する視点が欠かせません。現場の声と実際の作業に寄り添ったWMS機能の見極めが、成果を生む第一歩です。