自社に最適なAGVを選ぶ。それはカタログスペックを並べて比較するだけの作業ではありません。

特にライン間搬送のように「同じルートを毎日、同じタイミングで」「戻り搬送も欠かせない」ような用途では、ほんのわずかな選定のズレが、稼働後の不安定化や再選定コストにつながります。

現場からはよく、「AGV=自由に走れる台車だと思っていた」「とりあえず小回りが利けばいいと思っていた」という声が聞かれます。しかし、ライン間搬送において本当に求められるのは、「走れること」よりも「走り続けられること」。安定したルート走行、寸分狂わぬ停止精度、何度繰り返してもブレない搬送品質——これらは、価格や自律性だけでは見抜けない性能です。

この記事では、そんなライン間搬送の現場に特化し、「なぜ定常ルートに向いているのか」「なぜ往復搬送の方式が選定を左右するのか」といった本質的な視点から、AGV選びをガイドします。

選定前の一歩が、導入後の安定と成果を決める。迷わず進むための土台づくりとして、ぜひ最後までご覧ください。

AGVライン間搬送の役割と搬送負荷の特徴

決まったルートを反復搬送する需要

多くの製造現場では、部品を前工程から後工程へと正確に供給する「ライン間搬送」が欠かせません。とくに決まったルートを1日に何度も往復するパターンが多く見られ、物量に波がなく、タクトに応じた搬送タイミングの精度が重視されます。

そのため、AGVには「自由走行」よりも「反復精度」「安定供給」「復路制御」のほうが求められる傾向にあります。

納期遵守・工程間タクト維持の重要性

ライン間搬送がわずかに遅れるだけで、後工程では部品の手待ちやタクトの乱れが発生します。作業者が5分手持ち無沙汰で立ち尽くせば、それだけで工程間の連携が崩れ、納期にも響きかねません。

搬送遅延が工程全体に及ぼす影響構造(因果関係図)

搬送の遅延は、目に見えない形で生産全体のパフォーマンスに影響を与えます。下記図解は、搬送トラブルが工程全体に波及する構造を示しています。

[テキスト図解]

搬送タイミングのズレ → 工程間での滞留 → タクト崩壊  
        ↓                        ↓
   他作業者の手待ち         生産遅延リスク増大
        ↓
   管理工数・再手配コストの増加

たった数分の搬送遅れが、最終製品の納期遅延や人員配置の混乱につながります。だからこそ、定常搬送の安定性が全体最適のカギとなります。

定常ルート対応AGVに求められる性能

安定走行性能と直進精度

床の段差や狭い通路でも蛇行せず、安定して直進できるAGVが、定常搬送には求められます。わずかな進行誤差でも停止位置のズレが蓄積すれば、受け取り側の工程で微調整や再配置が発生し、工程全体の精度を損ないます。

定常ルートAGVの選定基準を整理した性能比較表

定常ルート搬送では、単なる自動運転機能だけでなく「安定性」「精度」「耐久性」が求められます。以下の比較表では、ライン間運用における実用的な選定基準を整理しています。

項目要求水準解説内容例
走行安定性床面凹凸でも蛇行しない狭路・交差点でも安定走行が可能か
直進精度誤差±10mm以内が望ましいラインに沿った定位置停止ができるか
バッテリー性能1日8時間以上稼働可能無給電時間を減らし、充電頻度を最小限に抑える
耐久性3年以上の連続稼働耐性部品摩耗・タイヤ摩耗への耐性
メンテナンス性日常点検が容易蓄電池やセンサの交換しやすさ

ライン間搬送のような定常運用では、再現性の高い停止精度と長期運用に耐える構造が必須です。表は導入時の比較検討に役立つチェックリストとなります。

稼働率向上のための耐久性・バッテリー性能

バッテリー持続時間が短く頻繁に充電が必要なAGVでは、稼働率が安定せず、補充・交換の手間が増えます。連続搬送が要求されるライン間では、停止時間の少ないバッテリー性能が選定の大前提です。

往復搬送に最適なAGVの走行制御方式

ループ走行・往復運用の動線設計

ライン間は往復動線が基本です。工程Aと工程Bを結ぶ搬送では、単純な一方通行型のループ運用ではなく、戻り搬送を想定した設計が必要です。

走行制御設計におけるループ型と往復型の動線構造比較

往復搬送AGVを活かすには、レイアウトに応じた走行パターン設計が不可欠です。以下はループ走行と往復走行の代表的な動線構成の違いを視覚的に示した図です。

[テキスト図解]

【ループ型】                     【往復型】
┌────┐                      ┌────┐
│ 工程A│──→──┐          ┌──→──│工程B│
└────┘      │          │      └────┘
              ↓          ↑
┌────┐      │          │      ┌────┐
│ 工程B│←──┘          └──←──│工程A│
└────┘                      └────┘

■ループ型:一方向の循環搬送。複数台で均等に搬送しやすい  
■往復型:双方向に1台で対応。ターンバックや旋回性能が重要

ループ型は距離や物量が多いライン向きですが、狭小通路や工程間を直接結ぶ構成では往復型が効率的です。制御方式の違いが運用性に直結します。

ターンバック・Uターン時の旋回性能

往復搬送型AGVでは、最小旋回半径や反転時の位置誤差が重要です。狭いスペースでも無理なく方向転換できるかどうかが、実運用での“つまずき”を防ぎます。

AGV運用コストを抑えるライン間搬送設計

片道搬送・復路搬送の最適台数設計

一方向搬送に限定するとAGV数が抑えられますが、復路搬送も組み込むことで1台あたりの稼働率を最大化できます。適正な台数設計が初期コスト・維持費両方に効いてきます。

積載方式(台車牽引/積載直載せ)の違い

AGVの選定では、走行性能や制御方式と並んで「積載方式」の選択が現場適合性を左右します。とくにライン間搬送のように同じ荷物を繰り返し搬送する環境では、「牽引するか、載せるか」の違いが、運用コストやレイアウトの自由度に大きく影響します。

現場の中には、通路幅に制限がある、交差点での旋回が頻発する、AGVが複数工程をまたぐといった制約が存在します。こうした現場で「積載方式」を誤れば、せっかくの自動化がボトルネックを生むこともあるのです。

台車牽引と直載型の積載方式による運用適性の違い

AGVの積載方式には「台車牽引型」と「直載型」があり、運用の柔軟性や通過幅に大きな違いが生まれます。以下はそれぞれの特徴を整理した比較表です。

積載方式メリットデメリット適用現場の特徴
台車牽引型台車を切り離して連携可能旋回半径が広くなる傾向複数拠点に一括搬送
直載型(積載)搬送物の安定性が高い積み下ろしの自動化に難がある短距離往復・定点供給

搬送距離や動線の広さに応じて適切な積載方式を選ぶことが、効率的かつ安定した運用につながります。

定常搬送に適したAGV事例

自動車部品工場でのライン間供給例

繁忙期を控えた自動車部品工場では、1人で1日8往復する手押し台車作業が大きな負担となっていました。

AGV導入による工程改善の定量的ビフォーアフター

以下は、自動車部品工場におけるライン間AGV導入の成果を定量的に整理した事例です。定常搬送が定着したことで、人手削減だけでなくタクトの安定化にもつながっています。

導入前の課題AGV導入後の改善結果
手押し台車による運搬AGVでの自動化搬送に置換
搬送1回あたり12分搬送1回あたり7分に短縮
人手1名×8往復/日AGV2台×8往復/日で完全無人化
作業者の歩行距離 約5km作業者移動ゼロ・他業務に転換可能

導入後は「人が動く」から「モノが動く」へと現場が変わり、作業者の声からも「最も疲れる作業がなくなった」との反応がありました。

電子部品製造現場でのタクト搬送例

部品供給の5分遅れで最終組立に遅延が出る現場において、AGVによる分刻みの搬送が効果を発揮。搬送の定時化により、工程全体の平準化が実現しました。

まとめ|ライン間搬送AGVは「走行安定性」と「往復設計力」で選べ

定常ルートの搬送では、派手な自律性よりも「誤差なく、狂いなく、走り続けられる」ことが最重要です。導入前の選定で「どのような搬送が求められているのか」を掘り下げ、性能・動線・積載方式を正しく見極めることが、失敗を防ぎます。

搬送が止まるリスクを排除し、作業者を煩雑なルーチン業務から解放する。その最初の一歩が「選び方」にあります。

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