夏場の工場内、とくに焼成ラインや乾燥炉周辺では、床からの熱気と壁面からの輻射熱が重なり、作業エリアの体感温度が50℃を超えることもあります。空気は循環しにくく、冷却装置を稼働させていても十分に効果が及ばないケースも少なくありません。

こうした高温環境では、わずかな作業でも体力の消耗が大きく、作業者の負担はもちろんのこと、設備にも熱による影響が及びます。AGV(無人搬送車)についても、センサーの誤作動やバッテリー異常といった不具合が起きやすく、導入そのものを見送る工場も見られます。

そうした中、関東地方のある金属加工工場では、焼成ラインの一部にAGVを導入し、高温環境下での安定運用を実現しました。導入当初はトラブルも発生しましたが、機種選定や設計の工夫、運用方法の見直しによって、現在では停止ゼロでの稼働が継続しています。

本記事では、この“高温ライン対応AGV”導入の背景とプロセス、現場での工夫と成果を詳しくご紹介します。高温を理由にAGV導入をためらってきた製造現場にとって、有効な参考事例となるはずです。

AGV導入前の高温ラインにおける課題

50℃超の高温環境での運行問題

焼成ラインや乾燥炉が集中する工場の一角は、夏場になると屋内であっても体感温度が50℃を超える状況となります。床からの放射熱、ライン設備からの輻射熱、そして空気の滞留によって、特定エリアが高温に閉じ込められた状態になります。

人が作業するだけでも大きな負担となる環境において、電子機器や駆動部品を多く搭載したAGVはさらに過酷な条件にさらされます。熱暴走、通信トラブル、バッテリーの膨張など、AGVにとっても高温は致命的です。

高温により発生していたAGVの停止トラブル

AGVを導入した直後、最も大きな問題となったのは頻発する停止トラブルでした。センサーの誤反応によりルートを外れたり、バッテリー制御が異常を検知して緊急停止する事例が続発していました。結果的に、毎日のように人手での搬送に切り替える必要が生じており、現場ではかえって負担が増していました。

高温ラインにおけるAGVトラブルの主因と影響

【テキスト図解】高温ラインにおけるAGV停止の主因と業務影響

[高温要因]          → [AGV停止要因]             → [現場への影響]
────────────────────────────────────────
50℃を超える床面温度 → モーター冷却不全           → 運行途中での緊急停止
直射日光と輻射熱      → センサー誤作動             → 物資搬送の誤ルート
熱膨張・振動の増幅    → 車体制御精度の低下         → ライン脇での搬送物落下
粉塵と熱の複合環境    → 通信遮断・バッテリー異常   → 手動回収・再配置の頻発

AGVの不調は、単なる機械の停止にとどまらず、生産ライン全体の遅延や人的リカバリー作業の増加にもつながっていました。

AGVによる高温ライン対応の実現

高温環境に強いAGVモデルの選定基準

問題解決に向けて最初に取り組んだのが、AGVのモデル見直しです。一般的な構内搬送用AGVでは高温対応が不十分なため、動作保証温度や筐体設計、冷却機構などの面から高温対応機種を選定する必要がありました。

高温対応AGVモデル選定時の比較ポイント

高温環境でも安定して稼働するAGVを導入するためには、従来モデルとは異なる観点での機種選定が求められます。以下の表は、実際の選定プロセスで重視された評価項目を比較し、どのような点が「高温対応」として差別化されるのかを整理したものです。

評価項目通常AGVモデル高温対応AGVモデル
動作保証温度0〜40℃最大60℃以上
冷却方式空冷式(自然放熱)強制空冷+遮熱構造
センサー耐熱性能一般的な樹脂製耐熱性ガラス・金属部品使用
バッテリー劣化耐性高温下で早期劣化高温対応セル・制御回路
制御アルゴリズム特性通常環境向け補正のみ温度変化を考慮した制御補正

温度変化に強い素材や制御ロジックを持つAGVを選定することで、根本的な停止トラブルのリスクを減らすことが可能になりました。

高温ラインに適応したAGVの設計と機能

導入されたAGVは、機体全体に断熱材を配置し、モーター・センサー・制御基板には独立した冷却系統を組み込んだ設計となっています。さらに、内部温度の変化を常時モニタリングし、過熱兆候を早期検知する機能も備えていました。

成功したAGV導入事例に学ぶ

過酷な環境でも安定運行を実現した事例

焼成ライン周辺へのAGV導入は、当初多くの現場不安を伴いました。特に、作業者からは「機械なんかすぐ止まる」「どうせ最後は手で運ぶ羽目になる」といった声も聞かれていました。実際、導入当初は、センサー誤作動や通信途絶などのトラブルが毎日のように発生し、現場では「結局、人の手が必要なんだ」と諦めかけていた時期もありました。

それでも現場担当者は、AGVの設定を見直し、運行ルートを調整し、冷却装置の位置を再検討するなど、一つひとつ原因を突き止めながら対応を続けました。小さな改善を何度も積み重ねた結果、半年後には「そういえば最近、AGVのトラブルを聞かない」と言われるようになり、現場での信頼も定着していきました。

50℃超環境で停止ゼロを達成した運用の工夫

運用の見直しにおいて特に有効だったのが、「ルート設計」「搬送頻度」「冷却ポイントの設定」でした。

高温ラインでの運行フローとルート設計の工夫

【テキスト図解】高温ライン対応AGVの運行ルート設計の工夫

〔搬送ルート全体〕
 入口 → 荷受け → 高温エリア(60℃) → 中継ポイント → 出荷口

【設計ポイント】
・高温ゾーン通過は最短経路(7分以内)に制限  
・中継ポイントに遮熱シェルターを設置  
・搬送頻度を1時間あたり3回から2回に抑制(蓄熱抑止)  
・通過後は冷却区画で5分間の待機を必須化  

運行ルートそのものを設計し直すことで、AGVが受ける熱ストレスを最小限に抑えています。

高温環境におけるAGV運用設計

高温ラインでの運行ルートと作業フローの設計

ライン周辺の熱分布を事前に計測し、温度帯ごとにAGVの滞在時間や通過速度を調整しています。併せて、中継地点での積み替え作業なども含め、作業フロー全体を高温対策仕様に変更しています。

高温対応AGVのメンテナンスと管理方法

定期的な点検を前提とし、通常よりも厳密なメンテナンス体制を構築しました。

高温対応AGVのメンテナンス項目と頻度

高温環境では、AGV本体やその構成部品にかかる負荷が大きくなり、通常よりも頻繁で詳細なメンテナンスが必要となります。以下の表は、通常のAGVと高温対応AGVにおける点検項目と頻度の違いを比較したものです。運用後の安定性を左右する「メンテナンス設計」の重要性が一目でわかります。

点検項目通常AGV高温対応AGV点検頻度
冷却ファンの動作確認年1回月1回月次
バッテリー膨張検査半年に1回月1回月次
センサー感度調整異常時のみ月1回または高温通過後月次
シャーシ歪み確認年1回3ヶ月ごと(熱膨張対策)四半期
絶縁・漏電チェック年1回月1回(高熱による劣化対策)月次

高温環境においては、冷却機構や電子部品にかかる熱ストレスが激しく、定期点検の頻度を高めることが必須となります。特に、バッテリーとセンサー類は高温の影響を最も受けやすいため、月次での検査体制を組むことで、故障の未然防止と長期稼働の両立が可能になります。

AGV導入後の成果と今後の運用展開

AGV導入による高温環境での停止ゼロの実現

導入から半年後には、AGVの月間停止回数はゼロを記録。現場では、搬送トラブルに割かれる時間が消え、作業者の心理的負担も大幅に軽減されました。

AGV導入後の稼働安定化による定量効果

AGVを高温ラインに導入したことで、現場の運用や品質にどれだけの変化がもたらされたのかを定量的に把握することは、導入効果を判断するうえで極めて重要です。以下の表では、導入前後での主要な指標を比較し、実際に得られた成果を明示しています。

項目導入前導入後改善効果
AGV月間停止回数約12回/月0回(完全ゼロ)停止率100%削減
人的介入による手動搬送数約150件/月10件未満約93%削減
高温エリアの作業時間月換算で120時間約60時間約50%削減
不良品率(熱影響含む)約3.8%1.1%約71%削減

数字が示すとおり、稼働の安定性と品質改善の両面で大きな成果が得られました。特に不良品率の71%削減は、製品ロスが月間で数百個から数十個に減少したことを意味し、現場では「ムダな手直しがなくなった」「再搬送のストレスが消えた」と実感する声が上がっています。作業時間の短縮や人手介入の削減も、繁忙期の残業削減に直結しました。

今後の運用拡大とさらに高温環境への適用の展望

現在では、同工場の別ラインや、より高温が予想される新製品工程へのAGV適用も検討されています。高温環境への適応力が立証されたことで、AGVの利用範囲は広がりを見せています。

まとめ|高温ライン対応AGV導入で過酷環境に強い運用を実現するための要素

高温環境においても、AGVは適切なモデル選定と運用設計、そして徹底した点検管理によって安定した搬送を実現できます。本事例が示すとおり、「高温だから無理」とされていた現場でも、改善の余地は十分にあります。機械への負荷、作業者の負担、品質への影響。そのすべてを改善できる可能性が、AGVにはあります。

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